カザンでの最終調整に入った日本代表 一体感を生んでいる西野監督のチーム作り

飯尾篤史

「選択の幅がある」集団になってきた

西野監督のチーム作りと選手起用により、23人の一体感が生まれている 【写真は共同】

 その理由として考えられるのが、選手同士のディスカッションを重視したチーム作りと、スイス戦、パラグアイ戦でメンバーを総入れ替えした起用法だろう。チャンスがある。レギュラー組とサブ組の垣根が壊され、スタメン予想ができないほどだ。

 西野朗監督が就任したのは4月のことである。新監督に許されたチーム作りの期間は3週間しかなかったことを考えれば、できるだけ早くスタメン11人を固定し、連係を成熟させていくという手法も考えられた。

 だが、指揮官は「選手の良さを引き出したい」ということで選手間のディスカッションを奨励し、「できる限り可能性を探りたい」ということでメンバーを固定せず、最適の布陣、最適の組み合わせを模索してきた。

 むろん、すべてが中途半端になってしまう危険性はあった。しかし、パラグアイ戦で一定の戦いを示せたことで、「今日の戦い方がベースになると思う」と武藤が語ったように、方向性が定まった。

 それだけでなく、各々の試合勘、コンディション、モチベーションに開きがなく、23人の誰がスタメンを張っても遜色ない、指揮官の言葉を借りれば、「選択の幅がある」集団になってきたのだ。

本格的なコロンビア対策へ向かう

4年前の経験を伝えるべきか。長友は「迷っている」という 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし一方で、「W杯はそんなに甘くない」という思いが、「もしかしたら」という希望的観測を打ち消しもする。

「そんなに甘くない」ことを教えてくれたのは、初戦の相手、コロンビアである。4年前のブラジル大会、決勝トーナメント進出の可能性を残して迎えたグループステージ第3戦、コロンビアに1−4で敗れて負った傷は、依然として生々しい。

「ズタズタにされた思い出しかないので、その経験を伝えるのがいいのかどうか、自分自身迷っている部分もあるんですよね……」

 そう語るのは、長友だ。違和感のあった金髪がすっかり様になってきた左サイドバックがさらに思いの丈を打ち明ける。

「自分がピッチで受けた感情をそのまま後輩たちに伝えてしまうと、もしかしたら腰が引けたり、自信を失う恐れもある。だから、言うべきなのかどうか、試行錯誤している最中ですね。実際に何もできずにボロボロにやられたので」

 だが、柴崎の「パラグアイ戦は自信にできるんじゃないかと思いますけど、気を引き締めて初戦に入っていきたい」という言葉や、武藤の「チームとして前を向けている。コロンビア戦が楽しみ」という言葉を聞く限り、後輩たちはそこまでやわではないのではないか。

 経験者たちが4年前の経験を、どうチームに伝えるのか。チームとして細部の精度をどう詰め、セットプレーのバリエーションを磨いていくのか。いよいよ本格的にコロンビア対策に入っていく。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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