連載:燕軍戦記2018〜変革〜

ヤクルト石山が新守護神として存在感 交流戦王者へチーム支える意識の高さ

菊田康彦

懸念は疲労の蓄積とケガ

石山の名がコールされたら試合が終わったも同然――それほどの投球を見せ始めている。それでも長いシーズンを乗り切るため、疲労の蓄積とケガには気を付けたい 【写真は共同】

 ヤクルトのホームグラウンドである神宮球場には、今年から高性能弾道測定器「トラックマン」が導入され、投手が投げたボールの回転数や、バッターの打球角度や飛距離といったデータが収集できるようになった。ボールの勢いやキレで勝負するタイプの石山だが、速球派のピッチャーの場合にしばしばクローズアップされる回転数よりも、気になるのは「むしろ回転軸ですね」という。

「彼の場合はすごく回転数が多くて、バッターの手元でのホップ率が高いんですね。ボールの回転はいいんですけど、疲れてくるとシュート回転になるんですよ。そうなるとバッターの手元で弱くなってとらえられてしまうんで、だから回転数よりも軸のほうが気になってるんじゃないですかね」

 石井コーチはそう話すが、現在の石山に懸念されるのは疲労の蓄積やケガだろう。そこは首脳陣も気を配っている。チームの5連勝がかかっていた6月3日の東北楽天戦では、1点リードにもかかわらず石山の5連投を避けて、9回のマウンドを近藤一樹に託した。

「石山とか、近藤もそうなんですけどコンディションにすごく左右されるピッチャーなんで、その辺は僕らも見ながらやっていきます。でも、石山もあそこで休ませてもらって、そのへんの心意気はしっかり感じてくれてると思います。今年は投手キャプテンにもなってすごく充実してると思いますし、今の(抑えという)地位も誰にも渡したくないだろうし……。あとはこのままケガなくやってもらいたいです」

恩師の墓前にいい報告を

 ヤクルトでも高津臣吾(現2軍監督)、五十嵐亮太(現福岡ソフトバンク)、そして現在は1軍投手コーチの石井といった日本人投手が守護神として君臨していた時代があったが、05年の石井を最後にシーズン30セーブ以上を挙げた日本人はいない。

 だからこそ、チーム最年長の石川雅規も「ホントにどっしりしてきました。今は彼が打たれたらしょうがないっていうのが、チームとしてもあるんで。日々成長していると思いますし、日本人の絶対的な抑えっていうと、高津さんとか石井コーチ、亮太もそうですけど、それに続く人がなかなかいなかったんで」と、秋田県の後輩でもある石山に期待を寄せる。

 今月5日、その石山に悲しい知らせが届いた。ヤクルトの元スカウト部長で、自身の担当スカウトだった小田義人氏が肺がんのために他界したのだ。

「小田さんがいなかったらプロに入ってなかったかもしれないですし、こういうふうに投げさせてもらっていたかもわからないですから。そこはいろんな縁があってこうなってると思うんですけど、それも小田さんが始まりなので感謝しきれない存在ですね」

 その恩に報いるため、そしてオフには墓前にいい報告をするためにも、今年は何としても結果を残さなければならない。

 かつて、メジャーリーグのドジャースに84連続セーブ機会成功のMLB記録を打ち立てた、エリック・ガニエというクローザーがいた。当時は彼が本拠地ドジャー・スタジアムのマウンドに上がるたび、ビジョンには「GAME OVER」と映し出され、ファンもその文字が書かれたボードを掲げるのがおなじみの光景だった。ガニエが登場したら、もう試合は終わったも同然というわけだ。

 ヤクルトファンにとって、石山もそんな存在になりつつある──そう思わせてくれるだけのピッチングを、29歳の右腕は続けている。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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