変わり始めた男子バレー、新戦術に手応え 明確な意図と課題、さらなる進化に期待

田中夕子

課題はサーブで崩され後手に回ること

サーブで崩され後手に回ることが日本の課題だった 【写真:坂本清】

 新戦術への挑戦や新戦力の台頭といった明るい兆しもあり、やるべきことは明確で、やりたいこともハッキリしている。だが、大阪での日本ラウンド3戦、特に敗れた初戦と2戦目は多くの課題も露呈した。

 まず大きなポイントになったのがサーブだ。

 日本ラウンドで対戦したブルガリア、ポーランド、イタリアは、どのチームもすべて日本の速攻やパイプ攻撃を封じるべく、まずサーブで先手を打つ。ミドルに取らせたり、アタックライン付近のコート中央に落として後衛のウイングスパイカーにサーブを取らせる。またはリベロや前衛のウイングスパイカーの体勢を崩して取らせることで、バックアタックの助走コースを塞ぐ。ただ攻めるだけでなく、どの攻撃を消すか、明確なサーブ戦術で先手を打つ相手に対し、後手後手の対応を強いられた日本は、相手の思惑通りに崩された。

 当然ながら日本も同様に、サーブから活路を見いだすことで新たなチャンスを生み出さなければならないのだが、1、2戦目はサーブがほとんど機能せず、当然その影響はブロックやディグ(スパイクレシーブ)にも及び、ブレークの機会が減る。2試合続けてのストレート負けも必然の結果だった。

 日本に限らず、試合の勝敗を決するうえでサーブが大きな比重を締めているのは明確で、イタリア戦のように西田や柳田のジャンプサーブに加え、李博や山内晶大のジャンプフローターサーブも効果を発揮することができれば、それだけ勝機も増える。ディフェンスを機能させ、よりブレークのチャンスを生み出すためにも、後半戦に差し掛かるネーションズリーグを通して、どれだけサーブに磨きをかけることができるか。崩されてから盛り返す、ではなく、まず自分たちから仕掛けて崩す。そんな展開をつくり出すためにも、今秋の世界選手権に向け、さらなるサーブ強化はまず取り組むべき大きなポイントであるのは間違いない。

世界が「日本の新たな形」を認識

収穫を得たが、課題が多く出たのも事実。日本の真の進化はここからだ 【写真:坂本清】

 イタリアに勝利はしたが、結果だけを見れば1勝2敗。突きつけられた課題は確かに楽観視できるものではないのだが、むしろそれ以上に高まる期待があるのも事実だ。

 なぜなら、柳田が「かなり相手が日本のミドルに対して警戒を強めているのを感じる」と言うように、日本のクイックやパイプを潰すべく、世界が対応してきた。それは、日本がどんなバレーをするのかという形が見えつつあるという裏返しでもあるからだ。

 単純にミドルの攻撃回数を増やすだけでなく、ジャンプフローターサーブに対するオーバーハンドでのレセプション(サーブレシーブ)やリードブロックの徹底など、昨シーズンから取り組んできた成果は試合の中でも着実に見られている。今はまだすべてが結果に結びついていなくても、何が、なぜ足りていないのか。1つ1つひもといて見れば取り組むべき課題は明確で、それをどれだけ克服し、さらに伸ばすことができるか。それこそが、世界トップクラスと互角に渡り合う可能性をより引き寄せるための力になるはずだ。中垣内監督が言った。

「今日のようなバレーができればどこにでも勝てるのか、といえばそうではない。まだまだ必要なことはありますが、強いチームと戦ううえでは今日のようにブロックできないならレシーブで拾う、ブロックを食らうならパスで返して失点につなげない。今日のようなバレーをベースにしないといけない。そこからさらに複雑な戦術や、新たな戦力を入れながら、東京(五輪)に向けてやっていきたいと思います」

 高さで上回り、巧さでも上を行き、選手層も厚い。そんな世界の強豪たちにどう立ち向かうのか。険しい道のりであるのは確かだ。

 だが困難を嘆くばかりでなく、得られた課題を活力にして、高い壁を乗り越える。世界との差を知り、たとえ小さな一歩でも、絶やすことなく埋めていく。今はその、長い道のりの途中に過ぎない。きっと真の進化はここからだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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