張本智和、ジャパンOP初Vが示した成長 「打倒・中国」ではなく世界の頂点へ

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絶対王者も舌を巻く張本の成長

馬龍も舌を巻いた張本の成長。その後も韓国のエース・李尚洙、ロンドン五輪金メダルの張継科を破った 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 倉嶋監督が出した戦術は見事に的中。バックハンドでラリーに持ち込んでくる馬龍にミスを誘発させて張本が得点を重ねる。フォアの打ち合いでもしっかり打ち勝つことで、「フォアでガツガツ攻める」という馬龍の選択肢をつぶすことができた。

 さらに張本自身も「まさかあんなにサーブが効くとは思っていなかった」と話すほど、サービスも効果的に働いた。本来は縦回転系のサーブを得意とする張本だが、この日は馬龍の前に戦った2回戦の周雨(中国)にも、YGサーブ(フォアで逆横回転をかけるサーブ)などを組み合わせて圧倒し4−0のストレート勝利を飾っていた。サーブの良いイメージを持ったまま馬龍にも立ち向かっていくと、相手のレシーブが浮いたり、ミスを誘発させることができる。そこを躊躇(ちゅうちょ)なく強打していくことで、絶対王者に対して3ゲームを連取することに成功した。

 その後、「勝ちを意識してしまった」ことで集中力が切れ2ゲームを落とすが、もう一度気持ちを切り替えるために「最初から声を出していこうと思った。声を出すと自分は体も動くし、冷静に集中できるので」と、得点の際には大きな声で自身を鼓舞。そして第6ゲームを奪い、ゲームカウント4−2の大金星へとつなげた。

 張本の戦いぶりに馬龍本人も「張本はすごく調子が良くて、0−3にされた時は焦ってしまった。彼はこの3年間ですごく成長した」と、舌を巻くしかなかった。

 ただ張本自身はこの勝利に舞い上がることはなく、「自分は優勝するためにここに来たので。あと2試合勝利して、優勝したい」とあらためて気を引き締めた。

心の強さを見せ、見事な逆転劇を演じる

 絶対王者を倒した勢いは翌日も衰えることなく、準決勝では今まで勝ったことがない韓国のエース・李尚洙に4−2で勝利。そして決勝では前週に中国で勝利している張継科と再び対戦することに。たった1週間ながら「まったく別の選手のようだった」(張本)という張継科が、序盤から張本の得意なバックの展開に持ち込ませず、2ゲームを連取する。しかし3ゲーム目以降は再び張本のサーブが効きはじめ、形勢が変わる。

 2−2で迎えた第5ゲーム。張本が10−8とリードしたが、エッジボールでデュースに持ち込まれると、簡単に2ポイントを失い10−12でゲームカウント2−3とされる。倉嶋監督も「デュースで負けて落ち込んだと思う。しかし、そこでもう1回気持ちを切り替えて戦い、最後に勝ち切れたのは評価したい」と話した通り、ピンチで気持ちを落とすことなく巻き返す心の強さを見せた。

 張本自身も「海外の試合だったら落ち込んでいたと思う。ただ(地元の日本ということで)どんな場面でも、最後まで1点を取ってたくさんの方に見てもらいたいという気持ちで、そこから冷静に戦えた」と、プレーが崩れることはなかった。

 この気持ちの成長が最終ゲームでマッチポイントを握られたときに自分のプレーで攻め切ることができた要因になり、最後は逆転勝利を呼び込むことになった。

東京五輪へ、苦手選手の攻略を

見据えるのは「打倒中国」ではなく、「世界のトップ」。張本はまだまだ進化を続けていく 【写真:松尾/アフロスポーツ】

「世界選手権のリベンジ」として臨んだワールドツアーで、2人の五輪王者を倒し、大きな成長を見せた張本。これまで多くの日本代表選手が口にしていた「打倒・中国」というスローガンは、張本からしてみれば「中国選手には比較的、勝てている」と口にできるほど、達成できている目標となった。張本にとってはその先の目標がすでに視界に入ってきていることだろう。

 2年後に迫った東京五輪に向けて、「出場するためには日本人の世界ランキングで1番か2番にならないといけない。あと1、2カ月で1番につけて、そこから五輪まで誰にも1番の座を渡さないという気持ちでいきたい」と意気込む。ランキングを落とさないためには中国選手に限らず、現在苦手としているタイプの選手にも勝ち切らないといけない。

 倉嶋監督もこれからの張本について「今はまだ(ランキングが上の選手に)向かっていく戦い。これが(中国の現世界ランク1位・)樊振東選手や馬龍選手と同じ位置にたどり着いた時、いろいろな選手を相手にしないといけない。まだまだ世界には張本を得意とする選手は多い。そういう選手にも対策を練って、負けないような選手に成長してほしい」と期待する。

 中国選手や苦手選手に勝ち続ける道の先には、世界ランキングの頂点、さらには東京で表彰台の一番高い位置に立つということになる。そのビジョンが、成長を続ける張本の目に、はっきりと見えてくる日も近いだろう。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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