戸田和幸が5バックを薦める3つの理由 日本がスイス戦で露呈した対応力の低さ
トップ下でプレーした本田の役割
クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア 【画像提供:データスタジアム】
攻撃に目を移してみると、単発でアタッキングサードまでボールを運ぶことはありましたけれど、そこから先の具体性が見られませんでした。後半13分に原口がボールを持って酒井宏樹が右を駆け上がっていた場面がありました。原口は武藤に斜めのパスを入れるんですがそこはCB2人が構えているエリア。深い位置を取りにいく選手がいないので、相手は背後を気にする必要がなく、前方向に守備ができたことで簡単にカットされてしまいました。
例えばこういった状況では一度、酒井宏を使いつつ、原口は内側からハーフスペースの一番奥で受ける動きがあったら相手はどう動くか、試す価値はあると思います。この試合の日本はボックスの中で受ける選手や外側もしくは内側深くまで走る選手を作ることができず、相手DFの前での攻撃に終始しました。ある程度のところまでボールを運べても、さらに深いところに入る動きが出てきませんでした。
攻撃においてはトップ下がどこにいるのかということが影響していたのかもしれません。本田の場合、トップ下での出場でしたがデータを見てもインサイドハーフというか、低めの位置でプレーメークする感じになっていました。後半13分には本田が右サイドで受けて、中央へと運びながら左サイドの長友に展開したシーンがありました。長友はこのあとクロスを上げますが、大外からのクロスになっているのでなかなか合わせるのは難しい。
こういった場面ではサイドで起点になった部分を他の選手に担当してもらい、トップ下の選手としてはもう少しゴールに近いエリアでクイックな動きやドリブルなどテクニックを使って打開してほしいところではあります。ただし、本田にスピード・クイックネスを求めるのは難しい部分があるのも事実で、単独での突破ではなく、近い距離でワンツーなどのコンビネーションが作れる選手が必要になります。
後半14分に自陣でボールを持つ槙野から本田にパスが出ました。本田はボールに触るために顔を出しましたが、槙野に戻すという選択肢しかなかった。こうなるとスイスからすれば下げたボールをどんどん追いかければよくて、最終的には川島までボールは戻り、蹴るしかなくなった。こういったプレーも相手にプレッシングのチャンスを与えているように見えました。
さらに本田でいうと後半23分、(シュテフェン・)ツバーのマークを外して局面を打開した酒井宏からのパスを受け、前を向いてドリブルしたシーンがありました。「ここぞトップ下」という場面でしたが、シンプルに武藤にパスを出してカットされてしまった。この場面では、酒井宏が素晴らしい持ち運びを見せたことで完全にフリーで前が向けました。これほどフリーで前が向ける場面はそうありませんが、残念ながら生かすことができなかった。スペースを有効に使う、ドリブルで運びながらいくつかの選択肢をギリギリまでちらつかせ、「いざボックス内」というタイミングでパス、もしくは左足でのシュート、そんな本田のプレーが見たいと強く思った場面でした。
日本に明確なプランはあったのか?
明確なプランが見えたスイスに対し、日本はプランを準備できていたのか 【Getty Images】
武藤と本田が縦の関係になり、本田はジャカを見ていましたが原口の斜め後ろにいたロドリゲスにボールを入れられてしまう。酒井宏はハーフポジションを取るツバーを見ていたのでロドリゲスのところには出られない。後半はこうした形でのサイドの選手へのマークが決まらない傾向がより顕著になっていました。スイスが意図的に仕掛けているのに対して、日本はそのまま放置させてしまっているように見えました。
――西野監督が柔軟性や対応力を求めているのに、対応できていないわけですね。
柔軟性を求めるにしても具体的な方法論がないと選手は迷います。試合が進むにつれ、ボールを奪いにいくことも、スペースを埋めることもできなくなり、とても中途半端な対応に見えました。相手が4バックのままだったら序盤のように守備もそれなりに効果を発揮できたのかもしれません。しかし、今のサッカーにおいて分かりきったオーガナイズで、しかも90分間一つの形でプレーするなんてことはまずありません。
この試合での日本は相手のミスからチャンスをもらい、敵陣に入る場面は作れたけれど、そこからの効果的な進入はできなかった。また、しっかりとしたビルドアップで敵陣まで入っていけた場面もほとんどなかったと思います。
スイスには日本に対して具体的なビルドアップのオーガナイズがありました。アジア勢との対戦がない彼らにとっては、決して必要ではなかった試合にもかかわらず、明確な意図を持って試合に入り、試合の中でもより効果的なものへと変更を加えてきた。1つ目のプランがあって、2つ目も存在した。対して日本は1つ目のプランすらどこまで明確だったのかなという気がしています。
日本は相手ディフェンスラインの手前でプレーしてしまう
攻撃時のリスク管理もうまくできませんでしたし、攻撃に人数をかけていても相手ディフェンスラインの手前でプレーしてしまう。ロストしたあとの対応も遅れて、シャキリがハーフポジションにいるので槙野も寄せられずに前向きに仕掛けられてしまいました。なんとかパスを足に当てたので失点しなくて済みましたが、攻撃に人数をかけた割りに全員がボールよりも後ろにいるし、ロストした後の寄せが遅い。これだとシュートまで持っていかれてもしかたないというカウンターの場面でした。
それは2失点目につながったCKも似ているかもしれません。日本はスイスがカウンターをスタートしたところに誰もいませんでした。ビハインドなので当然人数をかけて点は取りにいきましたが、見事にカウンターがはまってしまいました。1つ目のこぼれ球に反応したのは香川(真司)と乾、他の選手は歩いているんですよね。そこから縦に1本通されて初めて走り始めているんですが、すでにスイスの選手が先を走ってしまっている。当然ながらそこからでは追いつかない。ゴール前の対応をどうこう言うより、スタートの反応が非常に鈍かったことが問題でしたね。
スイスは常にグループで戦ってきた国で、これは日本も一緒なんです。世界的なビッグプレーヤーがいるわけではない。日本は相手がオーガナイズを変えることも事前情報として持っていたはずですが、どうやって対応しようとしていたのか見ていて分かりませんでした。
今日本が行うべきことはとにかく強固な1つ目を作ること、これしかありません。3バックでも4バックでも具体的なオーガナイズを持つということと、もう1つは試合の中で相手が変えてきたときにどう対応するのか。これも具体的に持っておくことが重要だと思います。
パラグアイ戦で試しておくべき「速い攻撃」
柴崎や岡崎のトップ下起用を試してもいいのではないか 【Getty Images】
パラグアイはコロンビアと同じ南米なので、次が初戦に向けた具体的な準備となるのかもしれませんが、パラグアイとコロンビアは違いますからね。とにかくあと1試合しかありません。「試す」時期はもう終わったはずなので、初戦に向けた最高の準備をしてほしいと願っています。
――西野監督は「起用の少なかった選手を使いたい」と言っていましたが。
試合間隔が短いですし、出ていない選手を使わないといけないのも分かりますけれど、そんなことを言っていられる内容でもないと思います。攻撃でいうと、トップに大迫を考えたときに、トップ下が本田だとどうしてもスローダウンするということ、それから岡崎や柴崎は使わないのかなと。
試合前に選手たちは「まず守備から」と言っていましたが、監督が考えるチームは守備から考えて選んではいません。本田を起用してボールを持つことを目指していると思いますが、岡崎や柴崎も所属クラブでやっているし、彼らをトップ下に置いてより積極的な守備や、動きの中で深い位置まで走らせたり、スムーズにボールを動かしながらサイドの選手が出ていくことも十分にできると思います。
トップにポストプレーヤー、中盤にパサーがいることを考えても、違うタイプの選手を入れてより「戦術的で強度の高い守備」、そして「深い位置を取りにいく攻撃」を目指してもいいのではないかと思います。そうすることで大島がもっと生きてくると思います。
スイス戦はすべての組み合わせがインスタント(即席)に見えました。ガーナ戦の後半の方が攻守につながりが見えました。また、「自分がシュートを打ちたい」「打たなきゃ」という面を強く感じたので、もう少しボックス周辺からの形を決めたいですね。サッカーは非常に複雑なスポーツなので、選手の自主性に任せても、できないものはできません。
どのみち作ったとしてそれに縛られるような選手たちではないと思いますから。1つ作ってあげると枝葉ができるけれど、木の幹がないと枝葉はできない。幹となる部分がまだないように見えるので、時間はありませんがなんとかそこがほしいですね。何をやるにしてもしっかりとしたベースがないと機能しないので、限られた時間の中ではありますが1つ目をしっかりと作ってほしいです。
※敬称略。本スタッツデータは公式とは異なる場合があります。