戸田和幸が5バックを薦める3つの理由 日本がスイス戦で露呈した対応力の低さ
5バックのメリットと具体的な対策
ボールを奪ったエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】
コロンビアもスイスと同じで、間違いなく試合中にフォーメーションを変えてきます。その時に幅を取る選手とハーフスペースを取りにくる選手の両方をどうやって、誰がマークするのか。スライドが間に合わず、クアドラードとハメスから1本入れられてしまったら終わってしまうかもしれません。実際にスイス戦でも狙った形で崩されていますし、ボックス内でCBがマークを見失う場面もありました。
5枚にしておけば、先ほどの例でいうとロドリゲスにアーリークロスを上げられたシーンでもウイングバックが前向きにアプローチできます。中の人数も1枚多くなり、お互いの距離も狭まるので、間に入られてヘディングされる危険性も軽減されるでしょう。
またCBとFWの2対2のようなシーンも作られにくくなります。あとはいつ、どうやってオーガナイズを変えるのかがポイントで、これはベースのオーガナイズが何かで変わってきます。ガーナ戦のように「3−4−3」であればシャドーがサイドに下がれば「5−4−1」になりますし、スイス戦のように「4−2−3−1」であれば原口(元気)を右のWBに下げるか、長谷部(誠)を真っすぐに下ろし、本田と大迫を2トップで「5−3−2」にします。
奪いにいく位置は自陣内、セットしたところからは下がらず、この試合のように3バックになった相手CBに運ばれたとしても、2トップがある程度は追いつつ3MFが連動する。ボールを運ばせるエリアを限定し、徐々に外側に追いやりながら実際に縦、もしくは外に出たボールに対しては3CBとWBが狙う。また、斜めのロングパスに対しても後ろが5枚ならスプリントでアプローチすればそもそもの距離が近い分、より近くまでアプローチすることが可能になるし、蹴らなくなる可能性もあります。
難しいのは2トップに対しての3MFの「立ち方」ですが、中央へのパスルートを前の2ラインで消しながら外に誘導するイメージを持たせていくことで、対応可能だと考えます。われわれには乾貴士、柴崎岳という戦術レベルの非常に高いリーガ・エスパニョーラで鍛えられた中盤の選手がいるので、十分機能させてくれると思います。さらには岡崎慎司を前で使う選択肢もあります。彼ら3人は皆、ハーフポジションを取りながら相手の選択肢を削りつつ、プレスのスイッチを入れられる守備を高いレベルで実践してくれると思います。
日本人は「ゾーン」での守備ができないと言われますが、スペースの管理ができる攻撃の選手を使いながら、後ろに人数をそろえておきつつ、ある程度つかむ相手を定めておくこと。そこから誘導するエリアに対して前向きにパワーを使う。これはあくまでも僕が考える一つの方法論ですが、スイス戦のように動かされ、侵入を許す形は何とかして改善していかないと1本でやられてしまうと思います。
前半36分には川島(永嗣)が飛び出したものの触ることができず決定機となってしまったシーンがありました。最終的にはエンボロのヘディングがポストに当たってゴールにはなりませんでしたが、このシーンも押し込まれたときに前に出る人間を作れていません。ボールホルダーにアタックする選手がおらず、後ろの準備も整っていませんでした。
一度サイド深くまで運ばれ全体が下がり、そこから中央でベーラミがフリーでパスを受けるもアプローチが遅れた。ベーラミのキックは精度が高くなかったものの、両CBがガブラノビッチを間に置いてしまい、危うい場面を作られた。槙野はトップ下にいたフロイラーを捕まえに動いてしまい、吉田もガブラノビッチをマークする前に蹴られてしまいました。
PKを取られたシーンで吉田のカバーが遅れた理由
ただこういった状況は本大会でも十分有り得るので、対処方法としては一番近いポジションの吉田がカバーに入る必要があります。実際、吉田は一度カバーに入ろうと動きますが途中でやめて下がっています。前に出ようとしたけれど、ステップを踏み変えて下がったんです。なぜかというと4バックのCBだからだと思います。4バックのCBである自分が早く出てしまうと、残るは槙野と長友しかいない。だから躊躇(ちゅうちょ)したのではないかと思いました。
一度出るのを止め、次のアタックするポイントをボックス手前に設定したと思いますが、味方の戻りが間に合わず、ボックス内に入ったところで接触という結果になりました。PKという判定について意見はあるものの、そこまで運ばれてしまったことについて、より真剣に考えなくてはならない守備だったと思います。
繰り返しにはなりますが、これがもし最終ラインが5枚だったら吉田は躊躇なくもっと早いタイミングでエンボロとの距離を詰めに出たと思います。この試合で見られた「中央を割られている」「間に入られている」「カバーリングが遅れる」という現象を見ると、やはり守備をセットするときはディフェンスラインにもう1枚増やしてもいいのではないかと思います。
W杯レベルのコンペティションではボールが持てる時間は限られますし、常に敵陣でプレッシングが行えるわけでもない。決してテクニックレベルが素晴らしく高いわけではないスイス相手でもこういった状況を作られてしまう現状を踏まえると、どのシステムを採用するとしても、より繊細な守備組織は必要になると思います。
――少しカバーが遅れてしまったり、スペースを与えるだけでやられてしまうと。
ちょっとしたところですけれど、そういったシーンをたくさん作られていますからね。
試合中にオーガナイズを変えるのは当たり前
ディフェンスラインに入ってビルドアップを行っていたベーラミ(左) 【Getty Images】
――そういった部分でも守備で意図を感じることができなかったと。
どのくらい具体的な守備戦術が存在したかですね。後半はスイスが中盤のオーガナイズを変えて「4−1−4−1」にしました。フロイラーがトップ下のような位置から右に移りましたが、これは攻撃時のオーガナイズをより明確にする狙いがあったのではないかと思います。ベーラミが下がってビルドアップする時に、より自然に「3−4−3」に移行することを考えたのではないかと思いました。前半よりさらにシャキリとエンボロが内側に入ってくるようになりました。幅を取りつつ、より内側のシャドーを活用した攻撃を狙ってきたのだと見ましたが、それによって日本はさらにボールが奪いづらくなったと思います。
後半8分にシェアからシャキリにパスが出て、長友の内側で受けられます。この時リヒトシュタイナーは幅を取り、フロイラーも外に動いて中央を開かせています。最終的にシャキリからインスイングのクロスが入りますが、この時ゴール前にはエンボロとガブラノビッチがいました。クロスは合いませんでしたがスイスに意図的に動かされ侵入を許し、入り込まれてしまいました。スイスの方が前半からうまく試合を進めていたはずなんですけれど、それでも彼らはより効果的にプレーできるようオーガナイズを変えてきた。こういうことは当たり前に、どの国もやってくることです。