CLで運も味方につけたレアル・マドリー タイトル獲得を習慣とするチームの強さ

グループリーグは優勝に値しない内容も……

CLを制したレアル・マドリー。しかしグループリーグでの戦いぶりは優勝に値しなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 フットボールにおいては、負け癖のついたチームというものが存在する。それらのチームはタイトルが懸かった重要な時期に入ると精神的にナーバスになってしまったり、主力選手が予期せぬけがに見舞われたり、試合中に不測の事態に見舞われることもある。

 一方で、タイトル獲得を習慣とするチームも存在する。これらのチームは決勝にたどり着くまでの過程の良し悪しとは関係なく、一発勝負の決勝で素晴らしいプレーを見せることができる。チャンピオンズリーグ(CL)を制したレアル・マドリーがまさにそれだった。

 5月26日(現地時間)のCL決勝が始まる前の段階で、たとえ優勝できなくてもそれまでの勝ち上がりに満足できるチームはどちらかと聞かれたら、誰もがリバプールだと即答しただろう。レアル・マドリーは対照的に、欧州王者にならない限り、失敗の烙印を押されることが確実だった。その差が極めて大きいことは確かながら、昨季のCLをグループリーグから振り返れば、レアル・マドリーの戦いぶりが優勝に値するとは言い難いものであったことは明らかである。

 グループリーグはトッテナムに敗れて2位通過。パリ・サンジェルマンとの決勝トーナメント1回戦こそ2試合ともに勝つことができたが、ユベントスとの準々決勝は、論争をもたらした第2戦終了直前のPK獲得によって辛うじて延長戦を逃れた。バイエルン・ミュンヘンとの準決勝第2戦ではスベン・ウルライヒの重大なミス、そして本人も認めたマルセロのペナルティーエリア内でのハンドが見逃される幸運に恵まれている。

栄光を手にする2つの要因+アルファ

途中出場のベイルが試合を決定づけたように、ベンチ要員の誰が入っても質が落ちなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 そんなチームがどうやって3年連続でビッグイヤーを持ち帰ることができたのか。その問いに対し、明確な答えを導き出すのは難しい。レアル・マドリーの欧州制覇は、いくつもの要因が重なった末の結果だというのが正しいだろう。

 第一の要因は5月31日に勇退したジネディーヌ・ジダン監督だ。常に穏やかな佇まいで周囲に落ち着きをもたらしていた彼は、誰よりもスター集団の扱い方を心得ていた。選手たちの信頼は厚く、クリスティアーノ・ロナウドには重要な試合でベストパフォーマンスを発揮できるよう、ローテーション起用に組み込むことを受け入れさせた。生粋の戦術家ではないものの、選手時代に培った類いまれな才能とプレービジョンのたまものか、選手交代を使って試合の流れを引き寄せることもうまかった。

 2つ目の要因は豊富な戦力だ。昨季はラ・リーガや国王杯では選手のローテーション起用に失敗したものの、ここぞという大一番に関しては先発メンバーだけでなく、ベンチ要員の誰が入ってもフットボールの質が落ちなかった。CL決勝については全選手がプレー可能な状態で迎え、昨季の決勝と同じ11人を送り出すことができた。

 とはいえ、不測の事態や重大な誤審があったことも事実だ。しかもCLに関しては、不思議なまでにそれらの全てがレアル・マドリーの有利に働いている。ただカリム・ベンゼマがウルライヒやロリス・カリウスのミスを逃さなかったように、それらの幸運も生かすことができなければ意味がない。

 その点、レアル・マドリーは選手個々のタレントと際立った勝負強さをもって、手にした全ての幸運を生かすことに成功した。その結果、CL決勝ではカリウスのミスによる2ゴールが生まれ、さらにギャレス・ベイルがオーバーヘッドでのスーパーゴールまで決めてしまったのだから、リバプールとしてはお手上げである。

 世界屈指のMFであり、いかなる状況下でもその瞬間にやるべきプレーが何かを心得ているルカ・モドリッチとトニ・クロース。生粋のストライカーと化して久しいC・ロナウド。世界最高の左サイドバック、マルセロ。地味ながら決定的なセーブを毎試合見せるケイロル・ナバス。彼らワールドクラスの選手をそろえたレアル・マドリーは、手にした幸運を生かし、自軍の勝利につなげる術(すべ)を熟知している。重要なのは幸運に恵まれるかどうかではなく、それを生かせるかどうかなのだ。

ターニングポイントを見極める力も

スペインフットボール界は5シーズン連続でCLを制した。スペインの圧倒的な支配はいつまで続くのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 リバプールとの決勝では、予期せぬアクシデントがもう1つあった。攻撃の要であるモハメド・サラーの負傷である。彼の交代を境に、リバプールはゲームを支配する側から支配される側に豹変(ひょうへん)した。こうした試合のターニングポイントを見極め、流れを引き寄せることも王者となるための重要な要素である。その意味においても、レアル・マドリーはいかなる状況下でも全てに対応できる準備ができているチームだと言える。

 どれだけ幸運に恵まれようとも、チームに確固たるベースがなければ5シーズンで4度のCLを勝ち取ることなどできない。ましてや1992年に現行のシステムが導入されて以降、2連覇すら実現したチームはなかったのだ。

 今やマドリーは欧州フットボール界の首都となった。レアル・マドリーがCL、アトレティコ・マドリーがヨーロッパリーグを制したことで、8月にエストニアの首都タリンで開催されるUEFAスーパーカップではマドリーダービーが実現することになった。この一戦とともに幕をあけるヨーロッパの2018−19シーズンは、マドリーのワンダ・メトロポリターノで行われるCL決勝で締めくくることになる。

 これでスペインフットボール界は5シーズン連続でCLを制したことになる。この5年間でレアル・マドリーが唯一敗退した15年も、優勝したのはバルセロナだった。

 スペインフットボール界の圧倒的な支配はいつまで続くのだろうか。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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