天皇杯、ジャイアントキリングの再現は? アマチュアチーム、それぞれの思い

平野貴也

番狂わせを生むのはモチベーションの違い?

プロとアマ、両方で天皇杯を経験しているVONDS市原のゼムノビッチ・ズドラブコ監督 【平野貴也】

 天皇杯は、アマチュアチームにとって、選手としての、あるいはクラブとしての価値を証明する場だ。だから、プロクラブとの対戦では、爆発的にモチベーションが高まる。アマチュアには勝って当たり前としか思われないプロとは、真逆だ。

 プロとアマ、両方で天皇杯を経験している指揮官がいる。2001年に清水エスパルスを率いて天皇杯を制した経歴を持つ、VONDS市原のゼムノビッチ・ズドラブコ監督だ。今年も千葉県代表の座をつかんで、2大会ぶりに本戦出場にこぎ着けた。アマチュアチームを率いて挑む気持ちを聞くと、指揮官は次のように答えた。

「全国では、まだVONDSのことを知らない人が多いから、できるだけ多くの人に紹介したい。次の相手はJ3の(ブラウブリッツ)秋田。チャレンジャーとして挑んで勝って(シードの柏)レイソルと(2回戦で)『千葉ダービー』をやりたい。

 清水で優勝した時(01年年度)は、当時JFLの本田技研とやった初戦(3回戦)が一番大変だった。ギリギリ(2−1)で勝って、その後は選手に勢いが出た。一番難しいのは、弱い相手とやること。アマチュアの選手は、気持ちが入っている。だから、いつも強いチームが負けて大きな話題になる。昨年も(当時福島県1部リーグ所属の)いわきFCが(J1の北海道コンサドーレ札幌に)勝った。だから、分からない。弱いチームは失うものが何もない」

 モチベーションの違いが「打倒Jクラブ」の番狂わせを生み、ジャイアントキリングに成功したチームが別のアマチュアチームに勇気を与えている。

懐かしい再会を果たす場にも

川崎フロンターレで活躍したブラジル人FWレナチーニョ(右)は現在、VONDS市原でプレー 【平野貴也】

 Jクラブにとっては、戦いにくいことこの上ない。アマチュアには勝って当たり前、負ければ何をやっているのかと責められるリスクがある。ファンやサポーターも見知らぬアマチームとの戦いにはあまり興味がないかもしれない。しかし、Jリーグが誕生してから25年が経ち、今では多くのアマチュアチームに指導者や選手として元Jリーガーがいるため、懐かしい再会を果たす場にもなる。

 たとえばVONDS市原は、かつて川崎フロンターレで活躍したブラジル人FWレナチーニョや、元日本代表でジェフ千葉やサンフレッチェ広島などでプレーした山岸智が在籍している。山岸は4月にチームに加入したため予選には出場できなかったが、本戦には登録が間に合う。

 山岸は「まだ自分が現役でやっていると知ってもらえることはうれしいし、以前に在籍したチームとやることがあれば良い機会になる。仲間が道を作ってくれたので、そういう場に立ってまた活躍できれば良いと思う。上のカテゴリーと試合ができるのは、この大会しかないので貴重。Jリーグにいたので、下部リーグとやる難しさは知っている。トーナメントは一発勝負。毎年、上のチームを食ってしまう試合がいくつもある。勝つチャンスは間違いなくある」と意気込みを語った。

 ジャイアントキリングが大会の大きな魅力だが、現実は厳しく、多くのアマチュアチームは1、2回戦で敗れていく。それでも、本戦にたどり着くことで、彼らの存在はサッカーファンの目に留まることになる。プロとアマが混在し、日本のサッカーファミリーを幅広く捉えられることもまた、大会の魅力だ。今年もまた、多くのアマチュアチームが価値ある挑戦に臨む。そして、いくつかのチームが、「巨人」を倒して大会を盛り上げるに違いない。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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