旋風を起こす? 規格外の県1部チーム 天皇杯漫遊記2017 いわきFCvs.ノルブリッツ北海道

宇都宮徹壱

85年ぶりに4月開催となった天皇杯

今年の天皇杯は4月に開幕。これから9カ月にわたって長い戦いが始まる 【宇都宮徹壱】

 福島の桜は、すでに散りかけではあったものの、お花見には十分な美しさであった。今年で97回目を迎える天皇杯全日本サッカー選手権大会は、4月22日と23日に各地で1回戦が行われる。

 4月に天皇杯が行われるのは、1932年(昭和7年)の第12回大会以来、実に85年ぶりのこと。天皇杯1回戦と桜を同時に楽しめるなんて、滅多にあることではない。毎年、日程を含めて細かいレギュレーションの変更が行われる天皇杯だが、これほど大幅なスケジュール改革が行われるのは、開幕が12月初旬(もしくは11月下旬)から9月に変更となった2004年大会以来のことである。

 この大幅な変更により、各地の予選も大きく前倒しになった。たとえば東京都予選(東京都サッカートーナメント)の1回戦は、昨年の12月3日に開催(前回大会の予選1回戦は、同じ年の3月21日)。その分、本大会の日程は実に余裕のあるものとなった。2回戦が6月21日、3回戦が7月12日、4回戦(ラウンド16)が9月20日、準々決勝が10月25日、準決勝が12月23日、そして決勝が18年1月1日となっている。日程以外の主なレギュレーション変更は、以下のとおり。

(1)原則として平日に開催し、国際マッチデーには開催しない。
(2)出場チーム数は前回と同じ88チームだが、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)シード枠は廃止
(3)J1・J2所属チームは、前回と同じく予選免除で2回戦出場。ただし「前年」ではなく「当年」のJ1・J2所属チームとする。

 このレギュレーション変更で、最も評価が分かれるのは、やはり日程に関する部分だろう。個人的には、1回戦から決勝までの7試合のインターバルが、1カ月から2カ月の間にほぼ収まっており、過密日程や極端に長い中断期間がないことについては評価したいと思う(前回大会は4回戦から準々決勝までが1カ月半、準々決勝から決勝までの3試合を9日間で戦わなければならなかった)。

 一方で不満があるとすれば、2回戦から準々決勝までがずっと平日開催であることだ。平日に仕事があるアマチュアや社会人のことを、ほとんど考慮していない決定であると言わざるを得ない。前回大会のHonda FC(ベスト16)のように、アマチュアチームが勝ち上がった場合、そのたびに選手のやりくりや勤務先との交渉に苦慮することだろう。幸い1回戦は週末での開催となったが(当初は平日開催で予定されていた)、そもそも天皇杯はJクラブのためにだけにあるのではない。そのことは、あらためて主張しておきたい。

下克上を制した福島代表、名門で知られる北海道代表

県予選でJ3の福島ユナイテッドFCを破り、初の天皇杯出場を果たしたいわきFC 【宇都宮徹壱】

 今年の天皇杯1回戦は、とうほう・みんなのスタジアム(とうスタ)で行われる、福島県代表いわきFCと北海道代表ノルブリッツ北海道の一戦をチョイスした。福島県代表が、福島ユナイテッドFCではないことに驚く方もいらっしゃることだろう。今月9日、とうスタでおこなわれた福島県代表決定戦において、福島はいわきに0−2というスコアで敗れてしまった。福島はJ3、いわきは県1部だから、4つのカテゴリーを超えての下克上ということになる。08年以来、9大会連続で天皇杯に出場してきた福島であったが、大台を目前にその記録は途絶えてしまった。

「福島をひとつ(ユナイテッド)に」というスローガンを掲げてきた福島とは対照的に、いわきFCは人口約35万人のいわき市にこだわったホームタウン戦略を打ち出しているクラブである。その契機となったのが、親会社である株式会社ドーム(米国・アンダーアーマー社の日本総代理店)が、現地に物流センター「ドームいわきベース」を作ったことであった。もっとも彼らは単に「できるだけ早くJクラブになること」を目指しているのではない。市内にスタジアムを作って、地域を巻き込んだビジネスを展開し、やがては日本のスポーツ界そのものに革命を起こすという野望さえ抱いている。

 そうした野望の一端が色濃く感じられるのが「日本のフィジカルスタンダードを変える」というチームスローガン。自前の練習場とクラブハウスを保有し、トレーニングメソッドとサプリメントはドームから提供される。こうしたJクラブ顔負けの施設とサポートの成果により、いわきの選手たちは県1部とは思えないくらいに体格がいい(ほとんどの選手は、浦和レッズの槙野智章のような胸板をしている)。今大会は初出場ながら「規格外の県1部」という意味で、いわきは極めて注目度の高い都道府県代表チームである。

 対する北海道は、前身の北海道電力サッカー部時代から地元の名門としてつとに有名。89年に北海道リーグに昇格して以降は、二度の6連覇(95年〜00年、03年〜08年)を達成している。12年にはリーグ戦を全勝し、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)でも1次ラウンドを突破するなど、JFL昇格まであと一歩のところまで迫る快挙を見せた。しかし近年は主力の高齢化が進んだこともあり、昨年の地域CLでも最下位で1次ラウンドを終えている。カテゴリー的には地域リーグの北海道が上だが、戦力的にはいわきが有利と見るのが妥当だろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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