出遅れたT−岡田に復調気配 バッティング変えた秋山幸二氏の言葉

ベースボール・タイムズ

秋山氏のヒントから2日後に1試合2発

秋山氏から言葉をかけられたのは5月4日。8年ぶりのマルチ本塁打は5月6日に放った 【写真は共同】

 次なるヒントは福岡で降ってきた。5月4日の打撃練習中、ソフトバンクの前監督で評論家の秋山幸二氏に尋ねられたという。「打席の中で集中するポイントは?」という大先輩の問いに対するT−岡田の答えは、「タイミングとインパクトですかね」。残念ながら、それは正解ではなかったらしい。

「秋山さん曰く、『人間が本当に集中できるのは一瞬。だから、打席で打者が全神経を注ぐべきは、投手のリリースから、スイング時のインパクトの瞬間までの時間』だ、と…」

 この言葉をもらった2日後に、8年ぶりの1試合2発を放った事実は、この稿の冒頭で記した通りである。

 では、秋山氏の言葉のどの部分に、T−岡田の心は動いたのか――。

「確かに、打者は投手が投げた後に、アクションを起こす。常に受け身なんです。だから、相手のリリースに集中しないといけない。調子が悪い時に限って、投手よりも先に動いてしまう傾向があった。実際、いろいろ自分主導で動きたい気持ちがありました。そう、受け身でいいんだって、あらためて気づかせてもらったんです。そうやって打席に立っていると、タイミングも合いやすくなりました」

本塁打より優勝に飢えるT−岡田

 5月14日時点で35試合に出場して116打数30安打の打率2割5分9厘、3本塁打、10打点。昨季31本塁打を放った和製大砲の爆発は、オリックスの今後の反攻に欠かせない。「うちのコアメンバーの一人ですから、(調子を)上げてもらわないとね」と、福良淳一監督もT−岡田の完全復調を願っている。

 1000試合出場を果たして、程無く訪れる次なる節目は1000安打(現在は通算959安打)という通過点だろう。だが、そんな勲章よりも彼には優先させるべきものがある。“ホームランは野球の華”とは、この世界の常とう句ではあるが、T−岡田はその華を追い求めることに固執してはいない。迷いながらも進化を求めて止まないチームリーダーは、誰よりもチームの勝利に飢えている。「勝ちたい! 優勝したい!」との想いは、チームの誰よりも強いのだ。

 どこまでも慎重な彼の口から景気の良い“全開宣言”は、この先もなかなか聞かれることはないだろう。だが、それは決して停滞ではない。理想のスイング、打球を追い求めて、藤井コーチとの二人三脚を続けながら目指すもの。それは「ここ一番での勝利を決する一打」、そしてその先にあるチームの勝利である。オリックスの巻き返しとT−岡田の復調は、今後の戦いの中でシンクロしてくるはずだ。それがいつになるか。ファンは今か今かと待っている。

(大前一樹/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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