1993年 Jリーグが誕生した日<前編> シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」

宇都宮徹壱

「Jリーグが続く限り、永遠に流れる曲」

Jリーグ開幕セレモニーでは、自身が作曲した『J'S THEME』をギターソロで演奏した春畑道哉 【(C)J.LEAGUE】

「今回、25年ぶりに『J'S THEME』のアルバムを作り直すにあたって、当時のマスターテープを引っ張り出してきたんです。アナログなので、くっついた糊(のり)をきれいに剥がすために、専用のオーブンで5分くらい温めるんですよ。久々に聴いてみると、意外とクリアでいい音だなと思いました。しかも、まったく古びていないという印象でしたね」

 TUBEのギタリストであり作曲家でもある春畑は、ちょうどJリーグ25周年に合わせて、『J'S THEME(Jのテーマ)』を再レコーディング・リアレンジした新バージョン『J'S THEME(Jのテーマ)25th ver.』、そしてJリーグ25周年記念アルバムを完成させたばかりであった。四半世紀前のセレモニーでは、自身が作曲した『J'S THEME』をギターソロで演奏。ちなみに試合前の国歌斉唱では、TUBEのボーカルである前田亘輝がその大任を果たしている。春畑に作曲の依頼があったのは、セレモニーの1年前、92年の4月末ごろの話であったという。

「ソニー(ミュージック)の担当プロデューサーの方から、『もうすぐサッカーがプロ化する。そのテーマソングを作ってみないか?』というお話をいただいたんです。もちろん、喜んで引き受けさせていただきましたね。作曲にあたっては、たくさんの資料をいただきながらレクチャーを受けました。海外ではこんなに人々が熱狂するんだとか、サポーターの応援は一体感があるとか。映像もいろいろ見せていただきました。スタジアムの盛り上がりだけでなくて、監督がロッカールームで選手を鼓舞しているところとか、選手が黙々と走り込みをしているところとか」

 春畑は、少年サッカーが盛んだった東京都町田市の出身。幼少期からピアノを習い、中学になってからギターを弾き始めると同時に、自ら作曲もするようになったという。とはいえ、サッカーとの接点はほとんどなかった。とりあえず「サッカーが世界的に人気のあるスポーツである」ことは理解できた。だが、作曲者にはもう1つ、「Jリーグが何を目指しているのか」についても、しっかり理解しておく必要がある。そのヒントを与えたのが、他ならぬ川淵チェアマンであったという。

「川淵さんにお会いした際、Jリーグに懸ける熱い思いとか、Jリーグの理念についてお話ししてくださいました。とても大らかで優しくて、明確なビジョンをお持ちの方でしたね。まだ開幕していないのに、『いずれは全国の至るところにプロサッカークラブが生まれるんですよ』ということもおっしゃっていました。Jリーグのテーマソングについても、川淵さんから『Jリーグが続く限り、永遠に流れる曲だからね』と言っていただきました。つまり僕が死んだ後も、スタジアムに流れるわけですよね。間違いなく自分の代表作になる──。そう思って、のめり込むように作曲しました」

<後編(5/16掲載予定)につづく。文中敬称略>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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