森岡亮太がロシアW杯で優勝を目指す訳 「目標を現実的に置く必要はない」

中田徹

「僕は優勝を目指している」

3月の親善試合マリ戦では背番号10を背負った森岡 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

――結果を出すということに関して、以前、「W杯で歴史を作りたい」と言っていました。歴史とは、これまでの最高成績であるベスト16を超えるということですか?

 僕は優勝を目指していますからね。

――まずは優勝を目標に置く。

 まずは、というか……もともと自分は「頂点を目指してやる」というのをモチベーションの置きどころにしています。頂点を目指した上で、そこにどれだけ近づけるか――。そういうタイプなんです。

――ということは、「歴史を作りたい」と言ったニュアンスには「優勝を目指す」という意図が含まれていたんですか?

 そうですね。目指すところはいつも一番上。

――優勝するためには「個の力」を上げて、それを「チームの力」に昇華させることがポイントでしょうか?

 そうだと思います。やっぱり個のところで戦えないといけない。決勝トーナメントは一発勝負ですが、まぐれ、まぐれ、まぐれの繰り返しでは勝ち上がっていけないと思うんですよね。期間は短いですし、それなりに個で戦えるチームが組織にならないと、トップレベルの国を倒し続けるというのは難しいと思う。

――20ゴール20アシストぐらいの数字を残せれば、そういう「個」に近づけるのでしょうか。

 一概にそうも言えません。20ゴール20アシストのような数字を残せれば、もちろん個のレベルは高くなっていると思いますが、それが個の力の全てではない。

――それでは、森岡選手が考える個の力とは?

 レアル・マドリーのカリム・ベンゼマは今季、全然点を取っていないんです。でも、ベンゼマの能力は間違いなく世界のトップレベルじゃないですか。そういうことです。点を取っても取らなくても、能力は間違いなく持っていると思われるようなレベル。クリスティアーノ・ロナウドもシーズン前半戦は点を取っていなかった。じゃあ、C・ロナウドに個の力がないかと言ったら、間違いなく世界のトップレベル。そういうところですよね。

――実力に加えて、オーラであるとか、周りからの信頼であるとか?

 1対1で負けないとか、競り勝つとか、奪い取れるとか、抜き切るとか、決め切るとか……いろいろな要素があると思うんです。

――C・ロナウドやリオネル・メッシは、連戦でもタフにプレーしますよね。

 そういう部分もあると思います。そういういろいろな要素を平均したものを高める。トニ・クロース(レアル・マドリー)はボランチだから15ゴールを取るような選手じゃないけれど、個の力がないかと言ったら絶対にあるじゃないですか。

「僕はトップに行くためにサッカーをやっている」

「自分は目標を常に頂点に置いている」と譲らない森岡 【中田徹】

――ロシアW杯への意気込みを聞かせてください。

 代表として、選手としてロシアへ行って、やっぱり歴史を作りたいです。その思いは変わりません。

――歴史を作る=優勝。

 目標は、優勝を目指します。

――現実的にはどうでしょうか。

「現実的に」とは、どういうことですか?

――私としては、せめてグループリーグを突破して欲しいと願っているわけです。

 それが世間の求める“最低ライン”じゃないですか。グループリーグには日本より格上の国が3ついて、うち2つを蹴落とさないといけないわけじゃないですか。やっぱり、難しいことは難しいです。だけど、現実的にどうということは、あんまり言っても仕方のないことかなと思います。

――言っても仕方がない?

 それは選手とジャーナリストの方の感覚の違いじゃないでしょうか。「現実的にグループリーグを突破できたらいいね」というこの言葉には、そこを目指しているニュアンスが含まれる。だけど、選手は優勝を目指してやっているので。

――その目標設定は、選手としては納得できないということですか?

 納得できないというか……。客観的に見たら、どこの国も格上なわけで、日本はグループリーグも突破できないレベル。だって、セネガルも、ポーランドも、コロンビアも(彼らが目指すのは)絶対に日本から勝ち点3を奪うことじゃないですか。

――彼らからすると、そうでしょうね。

「現実的」というのは、そういうことじゃないですか。ジャーナリストの方からしたら、グループリーグを突破して欲しい。それがジャーナリストの期待しているもの。それはジャーナリストが期待している目標であって、選手がそれを目指してどうなるのか。だって現実的なことを言ったら、日本はグループリーグ敗退じゃないですか。FIFAランキングを見ても日本は一番格下じゃないですか。「現実的」というのは、そういうことですよね?

 僕たちは「現実的」な部分をどれだけ打ち崩せるかが勝負なんです。だから「現実的な目標を言って欲しい」と言われても、答えても仕方がないと思うんです。

――なるほど。

 日本のサッカーも、僕のサッカー人生もずっとそうだった。そもそも、僕は年代別の代表チームにも入っていないし、エリートでもなかった。自分がポーランドに行った時、どれだけの人が現実としてアンデルレヒトに行けると思っていたか、ということです。だけど、自分は目標を常に頂点に置いていました。

 ポーランドでは、試合に出られない時期もあった。「ここで試合に出られるように」というのを目標にしてサッカーをしていたら、今ごろ自分はアンデルレヒトにいなかったはずです。

 もちろん、まずは試合に出ないといけないんですけれど、今は1日1日、一番上を見ながらやっている。現実的に見るというのは今その瞬間であって、自分の目標に対して今自分ができることをする。これが現実的に見る必要があるということだと思います。あまり選手は、目標を現実的に置く必要はないと思います。

――目標や夢に、突き進むだけ。

 そうです。もちろん、ずっと「今」はありますけれど。

――「今」が「現実」。

 そう。それも大事ですけれど、上を目指したいのなら常に上を目指してやっていくべきだと僕は思う。

――もし、ポーランド時代に森岡選手がベルギーを目指していたら、今の「アンデルレヒトの森岡亮太」はなかったかもしれない?

 行けて、そこまでだったんじゃないですか。僕はポーランドから2年でアンデルレヒトに来ましたが、例えば「僕はバルセロナを目指しています。だけど現実的には5大リーグの下の方か、ベルギー、オランダのトップぐらいかなあ」って思っていたら、5年かかったかもしれない。そうなるとキャリアの後半でここに辿り着いていた。だけど、僕は本当にトップに行くためにサッカーをやっていますから。

――このインタビューはW杯をテーマにするはずでしたが「夢や目標を持つことの大切さ」に趣旨が変わりました。とても良いお話をありがとうございました。

 だけど、(その設定は)人によると思いますけれどね。それこそ、職業によって違ってくるかもしれません。でも、僕のスタンスはそういう感じです。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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