酒井宏樹がW杯と日本代表への思いを語る 「もう一度、応援したくなるチームに」

木村かや子

膝のけがさえ完治すれば、酒井宏樹は日本代表不動の右SB 【Getty Images】

「ワールドカップ(W杯)は子供のころからの夢。前回(ブラジル大会)、僕は試合に出ていないので、まずプレーできたらと思う。けがなどなくいい状態で臨み、できる限りいいプレーをしたい」

 フランスの記者に尋ねられるたびに、こう答えていたマルセイユの酒井宏樹は4月21日(現地時間、以下同)、最短で全治3週間と診断された左膝内側側副靱帯(じんたい)の捻挫を負い、現在リハビリに励んでいる。

「故障したことを嘆いていても仕方がない。これから何をするかが大事だし、やることはたくさんある」と言う彼は、今、シーズン末と、その先に待つW杯を視野に入れ、できる範囲でのトレーニングにも打ち込んでいる。過ぎたことを悔やむのを嫌う酒井は、「こういうときは体を見つめ直すチャンス。すべてチャンスと思うしかない」と、持ち前の前向き思考で、脚をひきずりながらも前進中だ。

 そんな酒井が、「まずは23人に選ばれなければならないが」とやはり持ち前の慎重さを見せつつも、W杯への思いを語ってくれた。(取材日:4月19日)

代表で感じるのは誇りよりも責任

――仏記者に聞かれた時、よく「W杯は子供のころからの夢」と答えていますね。幼少期からのW杯への思いとは?

 僕は2002年の日韓大会の時、小学6年生だったんですけれど、その時の印象がすごく強く残っています。あれだけ日本が熱狂していた中で、選手たちはしっかり結果を出していたし、それがどれだけのプレッシャーだったか、というのが、サッカー選手になった今、痛いほど分かる。あれだけ人を狂わせることができる大会、W杯はすごく魅力的だな、とあの時から思っていましたし、いつの日か自分が23人の中に、という気持ちはすごくありました。

――23人のメンバー入りは4年前に経験しましたが、当時は若かったから、ベンチにいられるだけでうれしかった? それとも自分も試合に出たいのに出られない歯がゆさもあったのでしょうか?

 もちろん出たかったですけれど、自分のポジションで出ていた(内田)篤人くんが、かなり高いクオリティーでプレーしていたので、普通に考えたら難しい、というのは理解していました。自分のやるべきことは、日本代表として前に進むためにチームをサポートすることだけだ、という気持ちでしたね。

――酒井さんは12年ロンドン五輪にも出ましたが、日本を代表してあのユニホームを着ると、どのような気持ちになるのでしょうか。誇り? 高揚?

 誇りというより、基本的に僕の場合、責任という思いしかないですね。「やった! 日本代表のユニホームを着ているぜ」という感じはない。このユニホームを着たら、皆が納得するような結果を出さないといけない、と感じるので、リーグより全然、プレッシャーがかかります。楽しむべき場所ではないというか、常に、自分の成長というよりは、結果、結果の場所だと思うので、そういう気持ちで戦っています。

――ロシア大会にかける思いは?

 前回出られなかった分、足りなかったことはありますし、試合に出ることによってのみ経験できること、その試合に出ている11人しか感じられない部分というのは多くあると思います。それを味わいながら、チームとしてどれだけいけるか、個人としてどれだけプレーできるか、というのは、すごく楽しみですね。

南米の選手は何をしてくるか分からない

ネイマールとはクラブでも代表でも激しいマッチアップを行っている 【Getty Images】

――1月28日、ホームでのモナコ戦(2−2)では、ケイタ・バルデ(セネガル)、ラダメル・ファルカオ(コロンビア)、カミル・グリク(ポーランド)と、W杯のグループリーグで対戦する国の選手と相対したが、意識はしましたか?

 全然! 試合が終わった後には、「W杯で会おう」とか言葉は交わしましたけれど、彼らがいい選手なのは、前から知っていますからね。ただ、クラブチームと代表チーム、どちらの方に順応しているか、というのは選手によっても違うし、代表チームでの方が化ける選手もたくさんいる。いずれにせよ、彼らにいいプレーをさせないように、しっかりいい守備をしていきたいと思っています。

――ファルカオには第4節のアウェー戦(1−6)で2ゴールを許しました。そのときに止め方のヒントなど感じ取ったことは?

 ファルカオも(マリオ・)バロテッリも、(エディンソン・)カバーニもそうですけど、ほとんどプレーに関与しないんですが、本当に最後にポンと来るんですよね。ああいうのを見ると、本当にストライカーなんだな、と思います。ディフェンダーが集中力を欠く時間帯とかを、たぶん彼ら的に把握できているんでしょうね。

――ずる賢いキツネという感じで。

 南米の選手は本当にすごいですよ。ヨーロッパの選手と対決しても対応できるんですけれど、やはり南米の選手はちょっと違って、何をしてくるか分からない。僕らが見たことのない環境で育っている部分があるので、イメージできないんですよね。

 ネイマールくらい有名で、誰もが彼のプレースタイルを知っていれば、まだ分かるんです。でも、パリ・サンジェルマン(PSG)の(アンヘル・)ディ・マリアも相当分かりづらいし、(ハビエル・)パストーレも――僕、全く彼のプレーのイメージがないまま(PSGとの)試合に臨んだんですが、対戦したら手が付けられなかった。パストーレは本当に天才ですね。あれから、もうかなりプレーを見たので、今だったらちょっとは対応できると思いますけれど、あの当時はもう全然ダメでしたね。

――ファルカオは同じリーグにいますし、W杯を意識し、今は注意して見たりしていますか?

 今は全てのプレーヤーに対して準備しています。でないと対処できませんからね。W杯うんぬんだけではなく、対戦相手のチームのFW陣は全員。(フランス代表でモナコのトマ・)レマールはすごかったですね。ノーインフォメーションで試合に臨んだんですが、行ったらまじですごかったです。終わったら、あいついい選手なんだと皆に言われて、いや知っておくべきだった、と思いました。だから今は、そこの準備は怠らないようにしています。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。2022-23シーズンから2年はモナコ、スタッド・ランスの試合を毎週現地で取材している。

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