酒井宏樹がW杯と日本代表への思いを語る 「もう一度、応援したくなるチームに」

木村かや子

キーとなってくるのはポーランドとセネガル

酒井がW杯の対戦相手、そして日本代表について存分に語ってくれた 【木村かや子】

――W杯で対戦する3カ国の印象は?

 コロンビアは間違いなく強いチームで、強さに加え、勝ち切る力も持っている。劣勢でも、チームとしてしっかり戦える代表だと思うけれど、そこはたぶん皆も知っているはず。だから(グループリーグ突破を目指す上で)キーとなってくるのは、やはりポーランドとセネガルだと思います。

 ポーランドは、守備も組織化されていますし、やはりドイツに近いところなので、ヨーロッパのサッカーをしているチームで、かつ、1人“化け物”がいる。でも(ロベルト・)レバンドフスキだけでなく、他にもクオリティーの高い選手が10人いるので、しっかり分析していく必要がある。レバンドフスキだけを見てやっていたら、周りの選手にチンチンにされるから、しっかり準備して入らないといけないと思います。

 セネガル代表のチームとしてのプレーは、僕もまだ全然見ていないので分からないのですが、ケイタ(モナコ)のような選手もいれば、(リバプールのサディオ・)マネみたいな選手もいるし、同じアタッカーでも多種多様、いろいろな種類の選手がいるので、それに合わせた守備をオーガナイズしていかないといけないと思います。

 セネガルのようなアフリカ系の身体能力の高いチームに対しては、相手を乗せないことが重要なので、何より彼らが嫌がるような試合状況に持っていかないといけないですよね。僕らがけっこう押し込むことができれば、彼らが攻撃する時間帯は減り、守備をする時間帯が増える。守備は絶対に好きじゃないと思うから、なるべく相手にとってストレスがたまる状況を作ることができればいい。

――このグループは、4カ国の力が比較的拮抗(きっこう)しているのでオープンと見る者もいれば、1カ国だけずば抜けたグループよりも計画を立てにくいという見方もあります。

 いずれにせよ厳しいのは分かっていますが、混戦のグループリーグにしたいですし、そうするためには僕らが相手のリズムを崩さないといけない。やるべきことはいっぱいあります。

皆が同じ方向に進まないと、何も始まらない

――難しいグループの中、今ここにきて監督が代わってしまった日本は難しい状況に立たされました。この状況下で、日本代表が一番やるべきこと、必要な姿勢は何だと思いますか?

 皆が同じ方向に進まないと、何も始まらないと思います。監督が代わったからといって、初戦は延期にならない。僕らがやるべきことは、残り時間は少ないけれど、その分、濃く擦り合わせていく、ということ。技術もそうだし、自分たちのコミュニケーション、連係の部分もそうだし、少ない時間しかないからこそ濃くできる、ということはある。その濃さが、勝ち点を生むための唯一の戦略、方法じゃないかなと思いますね。

――ここまでやってきた中で、問題点、修正点はありましたか? 監督が代わると、またプレー方法も変わるでしょうから、それが今後も当てはまるかどうかは別ですが。

 最近はチームがうまく結果を出せていなかったのを、皆が分かっていたので、少なからずチームがひとつになろうという努力はしていましたし、食事の時とか、練習が終わった後でも、皆でプレーについて話し合うことは多かった。だから、ふわふわしていた選手はいなかったと思います。

 今、勝つ確率を上げるには、まず皆で一丸となって、連係なども含めたチーム力をアップさせるしかない。個人の力で劣っているのに、チーム力でも劣っていたら、どうやって勝つんだ、ということになるじゃないですか。だから、第一にそこをしっかり確認しながら、やるべきこと、やれることを全力でやって、自分たちが持つ100パーセントのものを、チームとして120、130パーセントの力にしていければ、いい試合ができるんじゃないかと思います。

――ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の縦方向に速いサッカーについて、それだけじゃ苦しいのではないか、「プランB」も必要ではと言っている選手もいたと聞きますが、それについては?

 攻撃陣と守備陣と中盤、GKもそうですけれど、各ポジション、たぶん皆、捉え方は違うと思います。別に縦方向に素早く行くのは、現代サッカーでは当たり前のことで、無理だったら下げてもいいから、と監督には言われていたので、僕はそこまで常に縦、縦というイメージではプレーしていなかった。監督からしたら、もっと行けよと思っていたかもしれないですけれど、それで何か言われたことはなかったですし、監督からは別に何も強制されてはいなかったので。ハリルホジッチ監督は、言い方はきついんですが、強制ではないんです。それはインフォメーションなので。僕はそう捉えていました。

代表監督から学ぶことは常に「勝利」の精神

ハリルホジッチ前監督について、酒井は「一緒に戦ってきた人が1人いなくなるのは残念」と語る 【Getty Images】

――先日、記者に囲まれてハリルホジッチ前監督解任について聞かれた時、酒井選手は「現場の人間は何も言わず、ピッチ上でプレーに徹するだけ。監督への感謝なども、すべてが終わってから言いたい」と答え、あえてコメントを控えているように見えました。

 僕が何か言ったところで、その捉え方は人それぞれ違う。今言った監督の話もそうですけれど、僕はこういうふうに捉えている、でも別の人は違う、というのはあるじゃないですか。自分が話したことによって、いい思いをする人もいれば、嫌な思いをする人もいるかもしれないわけで、だからそれをわざわざ言う必要はないと思った。今は新しい監督の下で皆がひとつになり、ピッチ上でやるだけじゃないかな、と思ったので。

――残念な気持ちは……。

 僕はこれまでのキャリアで常に、監督と一緒にプレーする、という気持ちがすごく大事だと思ってやってきました。僕は、ある監督の指揮下でやっている時は、常にその監督を信じてプレーするようにする、というタイプの選手です。そうでないとモチベーションが湧かないので、いつもそうしてきましたし、今までどの監督もすごくいい監督でした。だからもちろん、一緒に戦ってきた人が1人いなくなるのは残念です。

 でも新しい監督になったなら、今からは皆でその監督を信じてやっていかなければいけない。今は、皆で西野(朗)さんについていくべき時だと思います。各選手、それぞれ思いはあると思うけれど、今はやるべきことに気持ちを集中させる。W杯が終わってから、西野監督、ハリルさんに、個人的に感謝の気持ちを告げるのがいいと思っています。

――ここ3年でハリルさんから学んだことは?

 僕の中で、代表監督から学ぶことは常に「勝利」の精神。(前回大会の監督のアルベルト・)ザッケローニさんもハリルさんも常に勝利を求めている人でしたから、その勝利の哲学を教わりました。ここ(マルセイユ)の監督(ルディ・ガルシア)も、その点ですごいですけれどね。ただクラブでは毎日やっているから、戦術などに関しては、マルセイユの戦術がもうかなり自分の中に染み込んでいる。反対に代表では、そこで成長するというのを期待するのではなく、設定された戦術に、かちっと自分をはめることができるように、切り替えなければいけないと思っています。

――「フランスに来て、ハリルホジッチ前監督がやれと言っていることの意味が分かった」と以前言っていましたが、具体的に言うと?

 オフ・ザ・ボールの際の、攻撃から守備に転換するときの駆け引きや考え方というのは、(ガルシア監督もハリルホジッチ前監督も)けっこう似ている部分があります。以前は全然そこが理解できなかったんですけれど、僕がそのレベルに達していなかっただけなんだな、と気付きました。たぶんトップレベルの人たち、チャンピオンズリーグで常に上位にいくようなクラブの選手たちは、もっともっと先手先手で考えているんだろうなと思いました。そういう選手たちは、僕よりももっと早い段階で気付いて、最良の選択ができているのだと思います。

――あらためて、ロシア大会はどんな大会にしたいですか?

 困難はいろいろありそうですけれど、ただやはり、もう一度日本代表が――もちろん僕が選ばれたらの話で、けがもあり得るし、調子が崩れることもあるので、それはまだ分かりませんが――本当に応援したくなるようなチームであるところを見せることができれば、と願っています。結果もそうですし、内容もそうですし、もう一度、ひとつになって全力で戦っているところを見せられれば、ファンの人たちも、もう一度応援したいという気持ちになってくれるはず。

 それは、ここOM(オリンピック・マルセイユ)を見ていれば分かります。昨年はスタジアムがガラガラの時もあったけれど、いまや見に来てくれるファンがすごく増えましたからね。やはり結果と、応援したいと思わせるような戦い方がチームとしてできているか、というのが大事だと思っています。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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