イチローの2018年が開幕 復帰の第1打席、鳴り止まぬ大歓声

丹羽政善

揺さぶられた故・仰木監督の言葉

スタメン紹介では打者の最後で呼ばれたイチロー。姿を現す前から、スタンドからは大歓声が上がった 【Getty Images】

 10年、いや、それ以上前のこと。

 キャンプでは調整に徹し、開幕から「フォア・ザ・チーム」に考えを切り替えるのかとイチローに聞くと、答えは否だった。

「まずは自分。自分のことができなかったら、フォア・ザ・チームもなにもない」

 その原点は、20歳の時の福岡遠征。開幕して間もない4月終わり、敗戦後のチームバスでうつむいていると、故・仰木彬監督の言葉に、価値観を揺さぶられた。

「負けたんで真っ暗なんですよね、空気が。僕も同じように空気読むじゃないですか。同じように頭を下げていたら、監督から、『イチロー、お前なに下向いてんだ? ヒット1本、二塁打を打って、お前はそれでいいんだ。勝ち負けはオレが責任を取るから。選手は自分のやることをちゃんとやれ』と言われたんです」

 衝撃だった。真逆の発想。それはしかし、真なり。

「その当時はレギュラーで1年目のシーズンなんで、自分のことを考えてやるのが精いっぱいじゃないですか。当然ですよね。でも、チームのこと、チームのために頑張れ、というのではなくて、自分のために頑張れってなかなか言えることじゃないですよね。しかも、これからという選手に対して。それで、すごく心が動いた」

危ぶまれた開幕ロースター入り

 あれから20年以上が経ち、メジャー18年目の開幕前日にイチローが、そんな話をしたのには、訳があった。

 3月7日(現地時間)にマリナーズ復帰。11日にはオープン戦に出場し、順調な調整をうかがわせたが、14日のジャイアンツ戦で右ふくらはぎに強い張りを覚えた。それでも、16日にはキャッチボールを再開するなど、驚異的な回復を示したものの、開幕が見えてきた矢先、23日のマイナーリーグの試合で頭部に死球を受け、再びストップがかかった。

 間に合うのか――。

 その後、オープン戦に復帰したイチローだが、ふくらはぎの状態が100%とは言えず、打席数も限られたことから、開幕を故障者リストで迎える、あるいは暖かいアリゾナで再調整を迫られるのでは――との見方さえあった。

 つまり、開幕スタメンどころか、開幕ロースター入りさえ危ぶまれたのだ。

 そうした中で28日の開幕前日、イチローがレフトで守備練習をしていると、スコット・サービス監督が歩み寄って、握手を求めてきた。

「よろしく頼む」

 イチローの心が、ひさびさに動いた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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