イチロー、近くて遠かった古巣へ復帰「大きく育った犬を優しく迎えてくれた」
会見冒頭にゴードンが場を和ます
古巣マリナーズに復帰し、会見で思いを語ったイチロー 【Getty Images】
会見の冒頭、広報がそう注意事項を口にすると、真っ先に手を挙げたのは、マーリンズの同僚で今季からマリナーズへ移籍したディー・ゴードンだった。
「ハイ、ハイ!」
それにはイチローも苦笑い。結局ゴードンは質問をしなかったものの、スーツ姿で現れ、緊張した面持ちだったイチローの表情が一気に緩んだ。
前日にはもう、マリナーズのクラブハウスにイチローのキャンプ用ユニホームが用意され、ロッカーの前にはイチローの私物と見られるダンボールが積まれていたが、頑として、合意の事実を認めなかったマリナーズが、イチローとの契約、そして会見の予定を公表したのが、この日(現地7日)午前10時半過ぎ。
会見は、マリナーズがキャンプを行うピオリアのスポーツ・コンプレックスに併設された本球場内にあるレストランで行われ、午後1時半頃、イチローが姿を見せると、実況のリック・リーズら、懐かしい顔を見つけては、近寄っていく。他にも、挨拶する人が多すぎて壇上に到着するまで随分時間がかかり、座ったときにはまだ表情が硬かったイチローだが、会見に飛び入りしたゴードンが、場そのものを和ませたのだった。
2001年とは「全く違う感情」
「2012年7月にシアトルにサヨナラを告げてその後、ニューヨーク、マイアミと5年半が過ぎたんですけど、その間も僕の家はシアトルにあって、ニューヨークから家に帰る時も必ずシアトルの景色を見ながら家に帰る……マイアミからもそうでした。いずれまたこのユニホームを着てプレーしたいという気持ちが、僕のどこかに常にあったんですけど、それを自分から表現することはできませんでした。それは5年半前のことが常に頭にあったので、戻ってきてくれっていう言葉は僕の周りでたくさん聞いたんですけども、それを僕は聞き流すことしかできなかったんですね。でも、こういう形で、またこのシアトルのユニホームを着てプレーする機会をいただいたこと、01年にメジャーリーグでプレーすることが決まった時とは全く違う感情が生まれました」
くだんの12年7月、トレードを申し出たのはイチローだった。故に、「戻りたい」という気持ちはあっても、イチロー本人からアクションを起こすことはできなかった。
そのもどかしさを、「5年半の間、飛行機から見えるシアトルの街だったり、セーフコ・フィールドもそうですけど、僕にはホームなのにホームでない。近いのにすごく遠く感じる存在になっていた」とも形容している。
ただ、同時に、「僕はいずれ戻ってきてプレーをしたいと、できるんではないかと、全く根拠がなかったですけど、そう思っていました」とも言う。
昨年4月、およそ3年ぶりにセーフコ・フィールドに戻ってきて最後の打席でホームランを放ったが、あの日の試合後も、「最後になるかもしれない、という意識はあったか」と聞かれて、「全然なかった」と答えたのだった。
「今回は最後の打席という思いで立ちましたけど、これがひょっとして最後かなんて考え方は、まったくなかったです」
根拠のない自信。それが実現するためにはしかし、ちょっとしたミラクルが必要だった。