堂安はフローニンゲンに完全移籍するのか 自他ともに感じるオランダとの親和性

中田徹

2桁ゴールを視野に充実の時を過ごす

2桁ゴールまで、残り2試合で2点と迫る堂安(左)。その表情からも、充実さがうかがえる 【Getty Images】

 4月19日(現地時間、以下同)のオランダは27度を記録する異常な暑さになった。ユトレヒトとのアウェーゲームを終えたばかりの堂安律(フローニンゲン)も、「暑い。暑すぎる」と顔を火照らせながらつぶやいていた。

 1−1の引き分けに終わったこの試合、フローニンゲンのゴールは73分、トム・ファン・ウェールトのPKによって決まったもの。そのファウルは、右サイドバックのデヨファイシオ・ゼーファウクからのパスを堂安がスルーしてファン・ウェールトに通り、ターンして倒されたものだった。

 このシーンを堂安に振り返ってもらうと、実際にはほんの少しだけ、左足のアウトフロントでボールに触っていたのだという。

「本当にちょっと触るイメージだった。イメージ的には、俺にリターンで返してくれたら自分が1対1になっていましたけれど、思ったより(ファン・ウェールトが)フリーになったので、ターンしてくれてPKになりました。一応、PKには関与できたので今日は良かったです」

 残すは4月29日のエクセルシオール戦(ホーム)、5月6日のPSV戦(アウェー)のみ。

「2桁ゴールまで、2試合で2点。いけますね。PSV戦で残り2点でもモチベーションが上がりますけれどね。やっと、ここまできた。まだ終わりじゃないですけれど、今振り返れば1年やってきて、充実していると思います」

 毎日、練習に行くのが楽しい。毎試合が楽しくて充実を感じているのだと、堂安は言う。

「驚くようなプレーができる時がたまにあるので、本当に毎試合、『今日は自分がどんなプレーができるんだろう』とか。サッカーでは、練習でできないことが試合でできることがある。僕はそれがあると思うので、そういう楽しみがあると思います」

オランダ全土に認められる存在に

 ユトレヒト戦の堂安は多少、突破にこだわりすぎた面もあったが、4日前、先制ゴールを決めて2−1の勝利に貢献したローダ戦では、より効果的なドリブル、決定的なパス、チームに落ち着きと時間をもたらす間合い、ボール奪取、戦う姿勢など、非常にメリハリの効いたプレーを披露していた。

「自分のプレースタイルは一発屋ではないですし、組み立てのタイプでもない。どちらもやらないといけないプレースタイルなので、『内容が悪くても1点取ればいい』というプレースタイルを求めるのではなく、しっかり90分間戦ってチームに貢献した中で『やっぱりアイツか』と言われるような得点を目指してます。それがクリスティアーノ・ロナウドだったら目指すプレースタイルが違うと思いますけれど、自分がやるべきことはまだまだある。今日は1点に満足することなくプレーできましたので良かったと思います」(ローダ戦後の堂安)

 最近の試合後は、オランダ人記者が日本人記者に「堂安!」と叫んでサムアップし、ウインクをしてきたり、アーネスト・ファーバー監督が「堂安はトップ3(アヤックス、フェイエノールト、PSV)でも通用する」とオランダメディアに発言してみたり、いよいよ「堂安」という存在がフローニンゲン・ローカルのものではなく、オランダ全国区のものになってきたと感じる。そのことについて、ローダ戦後に尋ねてみた。

「それはそうでしょう。点、取っていますからね(笑)。日本人の19歳がオランダに来て、最初は舐められたところもありましたが、少しずつ(パフォーマンスで)黙らせて、黙った奴らが少しずつ味方になっていった。今はもうキングですね」

――オランダのキング?

「いや、オランダにはまだまだ倒すべき選手がいます。まだまだやらないといけません」

――黙らせてきたのは味方から?

「味方からですね。サポーターもそうです。やっぱりサポーターは期待をしてくれている反面、『日本人はなんや』という気持ちで見ていたと思います」

――サポーターからその気持ちを感じていた?

「いや、もし俺がサポーターだったらそう思って見るだろうなと思った。今、日本でタイ人の選手が活躍しているから、タイ人を獲ろうというのが出てきているのと同じように。最初は日本人も『タイ人だから』と見ていたと思うんですよ。それは日本人がヨーロッパに来たときの感覚と似ているのかなと思う。だから、ああいう選手たちはリスペクトしています」

――小さいのにヘディングでゴールを決めたりしていますものね。

「そうです。ああいう選手をきっかけに。日本人で言うと香川真司選手がドイツで日本人の名前を売ったような感覚で、Jリーグでタイのブームがきているのかなと思います」

――堂安選手もオランダリーグで、そういうブームを起こそうと?

「そうですね。過去に来ている選手がいますけれど、僕がもっと引っ張っていけるように。オランダだけでなく、ヨーロッパ全体を引っ張っていけるような選手になりたいです。だからこそ、この場所を選びましたし、この場所を選んだ理由が少しずつ評価されていると思っています。どんどん上にステップアップしていきたいです。1試合で人生が変わりますので。本当に分からないですよね」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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