オコエが停滞ムードの楽天を変えるか 3年目も「気合いMAX」で突っ走る!

松山ようこ

1軍合流初打席で先制アーチ

5日の日本ハム戦で特大の先制ソロを放った楽天・オコエ。持ち前のダイナミックなプレーでチームの起爆剤となれるか 【写真は共同】

「あ! ちっす、ちっす」

 1軍に昇格した東北楽天・オコエ瑠偉が、いつもの人懐っこい顔つきで挨拶してきた。北海道日本ハムとのホーム開幕シリーズ・3戦目の練習前のこと。いつにも増して、明るい雰囲気を漂わせている。待ちわびた1軍の初舞台で初スタメン。彼にとっては、シーズン幕開けの「新年」だった。

 この時、チームは4連敗中。期待されたのは「結果」であり、「チームの停滞ムードを変える活躍」だった。オコエはそれまでオープン戦では打率1割台と結果を出せず、開幕直前に悔しい2軍落ち。だが、2軍では打率4割台と“結果”を出していた。

「ファームではそこそこ打ってたみたいだからね。戦力として上げた」。試合前、梨田昌孝監督はオコエを呼び戻した理由をこう語っていた。そう言いながらも、ただし書きがつく。「ちょっと見てみないと」とあくまで冷静だ。

「彼の場合は、皆さん(メディアのこと)のおかげで名前が先行してるところがあるのでね。実力はまだまだ追いついてない」。それは、追い込まれてからの粘り、バント、右方向への打撃、相手投手に球数を投げさせることなど。梨田監督は、こうしたことも「選手の仕事」とオコエに足りないことを口酸っぱく語る。

 そんな指揮官の期待や指摘を知ってか知らずか、「9番・センター」で先発出場したオコエは3回の今季初打席で、先制のソロホームラン! 打った瞬間それとわかる打球は、ホームのファンが待つレフトスタンドへと消えた。気持ちよさそうにダイヤモンドを一周した背番号9は、チームメートとハイタッチを終えると、ベンチに座っても興奮冷めやらぬ様子で「よっしゃあああ!」と声を張り上げた。

 元気印でここぞの華のある活躍をいきなり魅せる。オコエらしい、スターの原石を思わせる場面がまた生まれた。メディアも伝えるわけである。ただし、この日の楽天の得点はここまで。目立つ活躍とはなったが、チームは逆転を許し、1対3と敗れたため、オコエの一発は起爆剤とはならなかった。

 それでも、オコエは以後、3試合連続ヒットを記録するなど好調をキープ。太鼓判を押されている守備と走塁でも、要所で好プレーを見せるなど、ところどころでチームの雰囲気を変えるだけのパフォーマンスを見せている。

日本語なのに海外選手と話しているよう

“天真らんまん”という言葉がとにかくハマる。

 冒頭の「ちっす」の挨拶の後は、ファームで打っていることに水を向けた途端、「バリバリっすよ。打ちまくりっすよ」と満面の笑みで返してきた。思わず、じゃあ今日はいけそう? と聞けば、「やったりますよ!」とニカッと笑う。そんな様子を見て、他のメディア関係者も声をかける。「気合いMAX?」「気合いMAXっすよ」。たくさん取り上げられるのは、多くのメディア関係者も、オコエのことが大好きだからかもしれない。

 実際のところ、彼ほど取材しやすい、取材して楽しい人気選手はなかなかいない。ドラフト1位選手など、メジャースポーツのトップ選手ともなれば、学生時代からメディア慣れこそしているが、それだけに警戒心を持って、あまり素を出さない選手も少なくないからだ。

 会話をしていると、日本語なのに海外の選手と話しているようなのだ。メジャーリーガーをはじめ、様々なスポーツの外国人選手を取材してきたが、大きな違いはメディアに見せる「顔」に思う。日本人選手は、たいていが真面目で普段の顔をあまり見せようとしない一方で、海外の選手はこちらが構える以上に気さくだったり、思ったことをストレートに言う。

 ナイジェリア人の父と日本人の母を持つオコエ。日本で育ち、日本語がネイティブだが、そこに留まらないはみ出た気質とパワーに、人々は魅了される。少々やんちゃな行動を取っても、周囲は「オコエだから」と許してしまう魅力がある。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。翻訳者・ライター。スポーツやエンターテインメントの分野でWebコンテンツや字幕制作をはじめ、関連ニュース、企業資料などを翻訳。2012年からライターとしても活動をはじめ、J SPORTSで東北楽天ゴールデンイーグルスやMLBを担当。その他、『プロ野球ai』『Slugger』『ダ・ヴィンチニュース』『ホウドウキョク』などで企画・寄稿。2018年よりアイスクロス・ダウンヒルの世界大会Red Bull Crashed Iceの全レースを取材。小学館PR月刊誌『本の窓』にて、新しい挑戦を続けるアスリートの独占インタビュー記事「アスリートの新しいカタチ」を連載中。

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