コーチなし、仲間と腕を磨いていざ五輪へ “考える力”が物を言うスケボーの世界

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東京五輪の追加種目であるスケートボードの強化合宿が初開催。2020年をどんな気持ちで迎えようとしているのか 【スポーツナビ】

「やっべぇ!!」

 初夏を思わせる晴天に恵まれた3月29日。静岡市内のスケートパークを訪れると、スケートボードで着地した時のバーンという破裂音に混じって、トリック(技)を決めた仲間への感嘆と驚きに満ちた声が聞こえてきた。

 彼らはスケートボードのストリート種目の強化候補選手たち。ここで13歳〜20歳までの男女計12人を集めてスケートボード初の強化合宿が行われていた。

 本番まで2年4カ月。ストリートから独自の文化を築いてきたスケーターたちは今、どんな思いで2020年を迎えようとしているのだろうか。

自由にできる、それがスケボーの良い面

 合宿の日程は26日からの5日間。何せ初めての合宿だ。持久走や筋トレをやらされるのではと心配していた選手もいたようだが、実際は実戦形式を含めてスケートボードを滑る練習に多くの時間が充てられた。日本代表の早川大輔コーチが「今の状態でベストなものを」と考えて判断してのこと。コーチ陣は機を見て指導をするが、アドバイスを送る程度で、頭ごなしに指示を出すことはない。選手たちも各々のスタイルで練習できるからか、のびのびと滑っているように見える。

 彼らには普段コーチがいない。指揮する西川隆監督によれば、スケボー仲間がコーチのような存在なのだという。日本は競技環境に恵まれているとは言いがたい。それでも、地元のスケートパークで上級者の滑りを見て学び、その上級者はトップライダーの技を動画で学び、その技を実際にパークで練習する中で、一緒に滑る仲間も上達する。そんな成長のスパイラルの中で、選手たちは腕を磨いてきた。
「コーチがいない分、自由にできる。それが(スケートボードの)すごく良い面」と、昨年の日本スケートボード協会(AJSA)プロツアー年間王者の佐川涼が目を輝かせれば、高校生プロスケーターの吉川楓も「仲間と楽しみながらスケボーできるのが一番楽しい」と明るく話す。自由度が高いということは、裏を返せば自ら考え行動する力がなければ上達できないということ。指導者が選手の主体性を育てるのに腐心している話はよく聞くが、スケートボードにそんな心配はなさそうだ。

「人がやらないこと」が得点になる

 ファッションや音楽などの文化的側面や、飛んだり回転したりするアクションに目が行きがちだが、選手らに話を聞くと、実際はかなり頭を使うスポーツであることが見えてくる。

 競技ルールをひも解くとその理由が分かりやすい。東京五輪で行われるのは、街中にある手すりや階段、縁石などを模したコースで滑る「ストリート」と、おわん型の湾曲した面を組み合わせたコースで行う「パーク」の2種目。ともにジャッジによる採点で争う。

東京五輪でも実施されるパーク種目。世界基準のコースは深さは3メートル程にもなる 【Getty Images】

 採点基準はトリックのスピードや高さ、難易度などの技術面だけでなく、オリジナリティーも重要な要素となる。一般の人には少し分かりづらい部分だが、早川コーチは「選手それぞれが考えて、自分らしさや、人がやらないことをあえてやっていくことが点数になる。そう考えると、頭の体操も必要だし、いろいろな動きに対応できる体が必要」と解説する。豊かな発想や想像力で頭の中に描いたイメージを、スケートの動きに落とし込む能力が不可欠だ。

 自分らしさの追求は決して容易ではないだろう。しかし、それこそが選手にとって、スケートボードの魅力でもあるようだ。

「技の組み合わせが何百、何千通りとあって、毎日インスタグラムなどを見ていると、本当に初めて見るような技もたくさんある。そういうのを見ているとすごく面白くて、『今度、自分もやってみよう』『これを付け加えて、これを組み合わせてみよう』となるんです」

 そう声を弾ませる佐川の言葉からは、自分だけのルーティンを編み出す楽しさがひしひしと伝わってきた。

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