コーチなし、仲間と腕を磨いていざ五輪へ “考える力”が物を言うスケボーの世界

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選手のための強化とは何か

一躍世界が注目するスケーターとなった堀米雄斗。西川監督も日本勢の中で「頭一つ出ている」と高く評価する 【Getty Images】

 自由を大事にするからこそ、指導する側には組織として“強化”することにジレンマもある。

 コンテストを目指すスケーターの多くは、世界最高峰ツアーの「ストリートリーグ(SLS)」や「VANSパーク・シリーズ(VPS)」への参戦を目標に掲げる。五輪の優先度は今はまだ高くないが、この先も五輪種目として残れば、金メダル獲得を夢見る子どもたちも増えるだろう。いずれにせよ競技活動は個々人に委ねられる。

 五輪に向けた選手強化を管轄するのは、統括団体である日本ローラースポーツ連盟(JRSF)の「スケートボード委員会」。ここにはスケートボード側からAJSAと日本スケートボーディング連盟(JSF)のメンバーが参加しており、現場を担っている。昨年11月にはJRSFが日本オリンピック委員会(JOC)に正式加盟し、強化費も配分されるようになった。

「連盟が選手をがっちり囲うような形にすると、逆に選手が身動き取れなくなってしまうので、なるべくそういうことはしたくない」と西川監督。スケートボードでは通常、個人資格で試合にエントリーする。8月のアジア大会で日本代表が初編成されるが、自身もスケーターなだけに、選手の気持ちは理解できる。これまで各々の裁量で大会に挑戦し、レベルアップを図ってきた彼らが、日本代表という組織立った活動をどう捉えるか。「(制約が多いと)選手も『いや、僕いいです』となるかもしれない」「そこまで縛られて、本当に選手のためになるのかな」。そんな思いが頭に浮かぶのだという。

 一方の選手たちは、そんな心配をよそに海外に活躍の場を広げている。昨年は堀米雄斗がSLSで2大会連続で表彰台に上り、一躍世界が注目するホープとなった。女子では16歳の西村碧莉がXゲームズのストリート種目で優勝。パーク種目は17歳の中村貴咲がけん引し、VPSのワールドチャンピオンシップでは2年連続3位と結果を残した。

 ただし、パーク種目の男子については世界のレベルが高く、後手を踏んでいる。世界基準の設備が国内になく、練習環境が整っていないことも大きい。それでも、世界の舞台に「近い選手は何人もいる」と担当する小川元コーチ。「(さらに)実力を伸ばすにはマインドの方が大事。取り組み方や、どういう行動をするかがすごく大事になってくる」と課題も明確だ。パーク種目については、5月20日に全日本選手権(新潟)が初開催され、そこで選考された強化候補生による合宿も予定しているが、内容は検討中。手探りの中での本格始動となる。

「五輪選手になりたい」スケボーで新しい夢を

長年スケートボード界に尽力してきた西川監督。東京五輪をきっかけに「世界に通用できるライダーを輩出できれば」と意気込む 【スポーツナビ】

 追加種目に決定した際は、一部のスケーターから「スケートボードはスポーツではない」と反発の声が上がったと聞く。ストリートの若者たちにとっては自己表現の手段であり、スケートボードたらしめる大事な要素だ。しかし最近は、「スケートボードという大きな円があったとしたら、競技の部分が大きくなってきて、ストリートカルチャーだと言っている子たちの部分がその勢いでヒュウっと(小さくなっている)」と西川監督。「五輪選手になりたい」と競技志向の高い子どもも増えてきたと話す。

「(地元の)東京でやるから注目されている部分はあります。そうでなければあまり注目されなかったかもしれません。僕は、東京でメダルを取る選手がいるんじゃないかと思っているんです。今、スケートボード全体が日本の中で少しずつ盛り上がってきています。(今後)その輪がもっと大きくなれば環境が良くなって、選手たちも得るものが増えて、さらに世界に通用するライダーが増えて……という、良い方向にスパイラルしていくんじゃないかなと。そういう意味で、東京でやってくれて良かったと思っています」

 五輪競技になったからこそ、スケートボードを手に取る子どもたちもいる。2020年を契機に、そんな未来のスケーターたちが夢を追い続ける環境が整っていけば、スケートボードの可能性は今以上に広がっていくだろう。「東京でやって良かった」という声と一緒に。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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