ダルビッシュの試み、有効な球種は? フライボールへの取り組みと対策・後編

丹羽政善

カブス入団会見では、カーブについて「もっと使っていくことになる」と口にしたダルビッシュ 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 今年のキャンプ序盤から、ダルビッシュ有(カブス)がカーブの精度に磨きをかけている。もともと非凡な球種ではあったが、試合で使う頻度は低かった。

ダルビッシュのカーブの割合
2012年:5.81%
2013年:6.31%
2014年:7.78%
2016年:9.72%
2017年:5.76%
(brooksbaseball.net参照)

 特に昨年は、メジャーに来てから一番比率が少ない。しかし、フリーエージェントとなった昨オフ、各球団と交渉の席でカーブの質を評価され、それは本人の予想を超えていたようだ。よって、カブスの入団会見でもこう話した。

「もっと(カーブを)使っていくことになるのかなと思います」

 実際キャンプが始まると、ブルペンでもカーブを投げる割合が増えた。その手応えも十分。

「かなりいい。ブルペンでも抜けたり、引っ掛けたりっていうのは、去年、一昨年みたいなことはないので、だいたい安定したところに行く」

 信頼度が増せば、“使える”球種になるのではないか。

 ただ仮に、フライボールバッター対策でカーブを生かすのだとしたら、もう少し速いカーブが必要になってくるのではないか。

 話を進める前に――。

打者の打球角度を上げないために

 まず、フライを打たせないようにするには、単純に打者の打球の角度が上がらないようにすればいい。

 では、どんな球種が有効なのか?

 各球種の変化量や転軸によって、どうボールが動くのかといったことを、シアトル郊外にある「ドライブライン」という施設で学び、さらには空力を調べ、自らのピッチングに生かしているトレバー・バウアー(インディアンス)によると、「カーブだ」と話す。

「フライボールバッターのスイング軌道は下から上へと、共通であることが多い。回転数の高いカーブを投げられればゴロが多くなる」

 そのバウアーのカーブを打者が打ち、本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球がどうなったのかを調べると、16年はゴロの確率が64.29%。17年は58.21%。一方、フライになった確率は、16年が11.9%、17年が11.94%だった。

 彼の持ち球の中では、ゴロを打たせたいときにはカーブということになる。

 そこからさらに踏み込と、データ的には速いタイプのカーブのほうが、打球が上がりにくい。

 まず、ジャスティン・ターナー、コディ・ベリンジャー(ともにドジャース)ら、代表的なフライボールバッターを6人抜き出した。それぞれ対右投手、対左投手、また、球種別に平均ランチアングルを調べたが、この限りでは、明確な結果は出なかった。そこで、フライボールの割合が高い上位50人(15〜17年のレギュラーシーズン)に対象を広げると、以下のような結果になった。
球種別の打球角度
4シーム:22.3度
2シーム:11.6度
シンカー:10.8度
スライダー:16.1度
カットボール:16.9度
ナックルカーブ:9.6度
カーブ:14.4度
スプリット:13.5度

 もっとも打球角度が高いのが4シームで、低いのが、人差し指をボールに立てるようにして投げるナックルカーブ。次に低いのがシンカーとなっている。

 打球角度9.6度でも打球の初速が125マイル(約201キロ)ならフェンスを超えるかもしれないが、その可能性は極めて低い。そもそも同様の条件で調べるとナックルカーブを打った場合の平均打球初速は87.4マイル(約141キロ)だった。

 そのナックルカーブには、通常のカーブよりも速いという特徴がある。メジャー平均(15〜17年のレギュラーシーズン)はナックルカーブの平均球速が80.6マイル(約130キロ)で通常のカーブが78.1マイル(約126キロ)。この2.5マイル(約4キロ)の差が、4.8度の打球角度の差を生む――と断定するのは極端かもしれないが、一因ではあるのだろう。

 仮に打球角度が9度で打球の初速が109マイル(約175キロ)だと、こういう結果になる。

打球速度109マイル、角度9度の打球結果 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 打率は.854だが、本塁打はない。完ぺきに捉えられても、単打にはなっても本塁打になることはないのである。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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