ダルビッシュの試み、有効な球種は? フライボールへの取り組みと対策・後編

丹羽政善

マ軍コーチが指摘する「奥行きが使える球種」

マリナーズ投手コーチによると、岩隈のスプリットはフライを打たれにくい球種だという 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 では、メジャーのチームは何がフライボールバッターに有効と考えているのか。

 マリナーズのメル・ストットルマイヤー投手コーチは、「奥行きが使える球種」と話した。

「ワンバウンドするようなチェンジアップ、スプリット。スライダーなら、横ではなく、落ちる軌道。シンカーもいい。そしてもちろん、速いカーブも有効だ」

 投手により、同じ球種でも軌道が異なる。“落ちる”あるいは“沈む”がキーワードで、彼に言わせれば、「岩隈(久志)のスプリットはまさにそんな軌道」だそう。

 一方でその逆――“伸びる”4シームファストボールも“あり”だという。

「まあ、物理的にホップはしないんだけど、バーティカルムーブメントの大きな投手の4シームはフライになっても、飛距離が出ない。ポップフライになる可能性が高い。一歩間違えば危険な球でもあるけど、空振りも取りやすくなる」

 バーティカルムーブメントとは、リリースポイント、球速などから、無回転の球が捕手のミットのどの位置に納まるかを計算し、実際に収まった場所との縦位置での差を求めたものだ。バーティカルムーブメントが大きい球は、つまり伸びのある球と言える。実は、バウアーもバーティカルムーブメントの大きな4シームの効果を指摘していた。

「コースとしては高め。低めはうまく拾われる」

ダルビッシュのカーブの特徴

 さて、いまや大リーグの全球場に設置してある「Statcast」、そのベースになった「トラックマン」、回転軸などが分かる「ラプソード」など、さまざまな解析機器があり、ブルペンで投げるだけでも、多くのデータが取れる。

 それらを使えば、例えばスライダーの軌道をフライボールバッターが苦手とするような軌道に変えることも可能で、先程触れた「ドライブライン」というトレーニング施設では、それを実践している。

 ドジャースやアストロズもそうした分析に力を注ぎ、選手の補強、育成に活用している。

 話をカーブに戻せば、彼らとしてはやはり根拠があって、カーブを投げられる投手を集めているのだろう。

 なお、ダルビッシュにも話を戻せば、カーブの平均球速が徐々に下がっている。

ダルビッシュのカーブ平均球速
2012年:79.71マイル(約128.3キロ)
2013年:79.78マイル(約128.4キロ)
2014年:78.32マイル(約126.0キロ)
2016年:76.64マイル(約123.3キロ)
2017年:73.46マイル(約118.2キロ)
(brooksbaseball.net参照)

 ただ、投げられないわけではない。

「普通に投げている限りでは、75(マイル)以上にはならない」そうで、「80ぐらいのカーブは、自分で意図して投げないと」と話したが、そのコントロールは自在。

「力の入れ方を変える。力の伝え方をもっと強く球に伝えると、速いカーブが行く」

 スライダーで代用できないのか? と聞けば、「違う球」と答えたので、必要に応じて速いカーブを、ということのよう。

 昨年5月5日(現地時間)、83マイル(約134キロ)のパワーカーブをロビンソン・カノ(マリナーズ)にスタンドまで運ばれた。

「あれは、横曲がりでしたね」

 必要なのは縦、ということも十分に理解している。

 入団会見で、「もっと使っていくことになる」と話したのも、縦のカーブということなのかもしれない。

 3月31日の今季初先発。カーブは1球しか投げなかった。

 それはしかし、80.9マイル(約130キロ)を記録。意図して投げたパワーカーブだった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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