パナソニックは誰が出ても勝てるチーム 総力戦のVファイナルを制して得た財産

田中夕子

大黒柱、清水邦弘のけがを乗り越えて

ファイナル6で離脱した清水。ファイナルでも選手たちを鼓舞した 【写真:坂本清】

 天皇杯も制し、早々にファイナル6進出が決定。すべてが順風満帆に進んでいくかと思われた2月、予期せぬアクシデントが起きた。

 誰が出ても勝てる。それだけの力が結集していることは間違いない。ただ、もう1つ間違いないのは、そんなタレント豊富なチームの中心にあったのは、得点源であり大黒柱でもあった清水の存在だった。

 けがから復帰を果たし、対戦相手の選手たちが「今年の清水さんは止められない」と口をそろえるほど、コンディションを整えて臨んだ今季は開幕から好調を維持していた。その清水が2月18日に行われたファイナル6のJT戦で試合中に右膝を負傷。診断結果は前十字靭帯断裂、内側側副靭帯断裂、半月板損傷で全治12カ月。起きてしまったことは変えられないとはいえ、川村監督が「この先どうやっていくかということも見えず、自分が一番テンパっていたかもしれない」と振り返ったように、想像することもできないほど、大きなダメージが残った。

 だが、それでも試合は続く。当初は「清水さんのために」と掲げていた選手たちに、他ならぬ清水自身が「俺のためじゃなく、自分のために戦ってくれ」と鼓舞し、1人1人の意識が変わる。清水が欠場後のファイナル6はJT、豊田合成に敗れたがレギュラーラウンド1位のアドバンテージが生き、ファイナル進出を果たした。

福澤「チームとして何をやってきたかの勝負」

 迎えたファイナル、期せずして、対戦相手の豊田合成もファイナル3で大黒柱のイゴール・オムルチェンが負傷。両チームが共にレギュラーラウンドとは異なる戦いを余儀なくされた中、どちらが最終決戦を制するか。福澤が言った。

「僕は清水の代わりは誰もできないと思っているので、今いるメンバーでそれぞれがどういう役割を果たしていくのか。その中で僕自身やるべきこと、やらなければいけないことをやっていく。うちも合成さんも、どちらも苦しい状況に代わりはないので、どれだけチームとして戦えるか。ファイナルは、このリーグの集大成、チームとして何をやってきたかということの勝負になるんだと思います」

 パナソニックが1勝して、迎えた3月18日のグランドファイナル。両チーム共に状況に応じてさまざまな選手が投入され、役割を果たす。平常心でプレーすることが難しい状況だからこそ、普段以上にパスを丁寧に、つなぎのプレーを丁寧に。数字には残らない細かなプレーにこだわり、ボールをつなぐ。

 それは、決して大げさではなく、1人1人がチームのために役割を果たし、力を出し尽くした素晴らしい決勝戦だった。

忘れ得ぬ記憶、得難い自信

総力戦を制し、選手たちは得難い自信を得た 【写真:坂本清】

 大一番を制し、勝者となったパナソニックが4年ぶりに見る頂の景色――。

 主将の深津が言った。
「この若い選手たちと、決勝という舞台を経験できたこと、経験させてあげられたことがすごくよかったんじゃないかなと。若い選手たちがこの舞台を経験できたことは今後3年、5年後にも絶対つながってくる。最後まで自分を信じて、仲間を信じて戦った結果が勝ちにつながって本当によかった。チームの全員に、感謝したいです」

 すべての力を結集させ、つかんだ勝利。それはきっと、忘れ得ぬ記憶として、そして得難い自信となって、いつまでも残り続けるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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