当初、アルトゥールはホームシックと冬の寒さに苦しんだが、歯を食いしばって耐えた。

　グレミオはロナウジーニョら名選手を輩出しており、若手の育成に定評がある。充実した練習施設と経験豊かなスタッフのおかげで潜在能力を開花させ、クラブ関係者から「ジョイア」（宝石）と呼ばれるようになった。

　ただし、当時は身体がきゃしゃでフィジカル・コンタクトに弱く、スタミナも不十分だった。年齢別代表では２０１３年にＵ−１７南米選手権に出場したが、この年のＵ−１７ワールドカップ（Ｗ杯）には招集されていない。１５年、１８歳のときトップチームでデビューしたが、体力不足で故障も多かった。翌年もトップチームでの出場は１試合にとどまり、１７年も４月中旬までは控えだった。

　転機となったのは、４月２０日（現地時間）のコパ・リベルタドーレスの一次リーグ、グアラニー（パラグアイ）戦。先発出場すると、後半、ゴール前中央から鮮やかな浮き球のパスをＦＷに送り届けて同点ゴールを演出した。さらにその１週間後、同じ相手とのホームゲームでは、中盤で攻守に大活躍。この試合で出したパス４７本すべてを成功させ、大勝に貢献した。

　以後、常に先発出場するようになり、９月末にはブラジル代表に初招集された。１８年Ｗ杯南米予選の最後の２試合の登録メンバーに選ばれたのである。

　その後、コパ・リベルタドーレスでは決勝セカンドレグも決定的なパスを配給してマン・オブ・ザ・マッチに選ばれ、クラブの２２年ぶりの優勝に大きく貢献した（ただし、この試合で左足首を痛め、クラブＷ杯には出場できなかった）。

　ブラジル代表のチッチ監督は、「人間的にしっかりしており、集中力が素晴らしいから、ビッグゲームに強い。ポジションも特長も異なるが、そういうところはガブリエウ・ジェズス（マンチェスター・シティ）によく似ている」と評価する。セレソン（ブラジル代表の愛称）でプレーするとすれば、４−１−４−１の２列目中央だろう。現在のレギュラーはパウリーニョ（バルセロナ）とレナト・アウグスト（北京国安）だが、この２人の控えとしてＷ杯ロシア大会の登録メンバーに招集される可能性が高い。

　バルセロナでは、４−４−２の２列目のどこのポジションでもプレーできる。ただ、中央はセルヒオ・ブスケッツとパウリーニョでほぼ盤石で、出場するチャンスが大きいのはサイドだろう。クラブは、イニエスタの後継者となることを期待しているはずだ。

　１１カ月前はグレミオでもレギュラーではなかった若者が、誰もが憧れ、自らも子供の頃から憧れてきた欧州メガクラブへの加入が内定した。Ｗ杯出場の夢も、現実になりつつある。絵に描いたようなシンデレラ・ストーリーだ。

　彼の強みは、才能だけではない。目標に向かって地道に努力する姿勢が身に付いており、プロ意識が非常に高い。穏やかな性格だが、自分の考えをしっかり持っており、気持ちがぶれない。成功にも舞い上がらない賢さと落ち着きがある。

　とはいえ、アルトゥールのキャリアはこれからが正念場だ。過去、彼と同じようなキャリアを歩みながら、欧州ビッグクラブへ到達してから伸び悩んだブラジル人選手は少なくない。今後、グレミオでさらに成長し、Ｗ杯ロシア大会で出場機会を与えられたら臆せず持ち味を発揮してさらに大きな自信を手にしたい。そして、バルセロナ移籍後はスペインでの生活とチームのプレースタイルに早く順応し、イニエスタら先輩から多くのことを吸収して、監督から求められた役割をしっかり果たさなければならない。

　今後、バルセロナとセレソンの中心選手に育つ資質は十分にある。今年から来年にかけて、世界で最も注目すべき若手選手の１人であるのは間違いない。