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上原は巨人の救世主となれるか!?
メジャーでのピッチングの秘密を探る
10年ぶりの巨人復帰が決まり、ユニホーム姿でポーズをとる上原
10年ぶりの巨人復帰が決まり、ユニホーム姿でポーズをとる上原【写真は共同】

 上原浩治が巨人と契約し、10年ぶりの日本球界復帰を決断した。MLBのFA市場の動きが遅く、シーズン前ギリギリでの古巣入団となった。


 先発、中継ぎ、抑えをすべて経験し、2013年には世界一にも輝いたメジャーリーガーの凱旋に、巨人のみならず日本のファンは大きな期待を寄せる。


 メジャーでの9年を経て上原はどんな投球を見せてくれるのか。今回は、17年のカブスでの投球をトラックマンデータから分析していく。

2球種のみで勝負

 まず、上原の投球の中心は4シームで、その割合は63%を占めていた。スプリットと合わせて95%を占めており、ほぼ2球種のみで勝負している。


 MLBが運営している『baseball savant』上でデータが確認できるが、17年に投球された球種は4球種であったものの、上原自身は2シームの投球を否定しており、本稿では2シームを除いて分析を進めていく(表1)。

球速と投球割合。本稿は2シームを除く3球種を分析する(カッコ内はメジャーリーグ平均)
球速と投球割合。本稿は2シームを除く3球種を分析する(カッコ内はメジャーリーグ平均)【Baseball Geeks】

 4シームの平均球速は140キロと、救援投手ながらメジャーリーグ平均を大きく下回る。しかし、投球割合は63%と圧倒的に高く、上原は「球速が遅い速球派」の投手なのだ。


 では、なぜ140キロの4シームが打たれないのか。回転数とボール変化量の観点から秘密を探る。

遅くても伸びる4シーム

 上原の4シームの特徴は、回転数が高く、ホップ成分(重力とは逆方向に働く力)はメジャーリーグ平均を約10センチも上回っている。仮に打者が平均的なボールをイメージして打ちにいくと、ボール1〜1.5個分も伸びるように錯覚するボールで、空振りを奪いやすい球質だ。

回転数とボール変化量。ホップ成分はメジャーリーグ平均を約10センチも上回る(カッコ内はメジャーリーグ平均)
回転数とボール変化量。ホップ成分はメジャーリーグ平均を約10センチも上回る(カッコ内はメジャーリーグ平均)【Baseball Geeks】

 さらに、上原の4シームの特異性を示すデータを紹介する。下の図はメジャーリーグで投球された全4シームから、球速とホップ成分の関係を見たものだ。球速が高まるにしたがって、ホップ成分が高まっていることがわかる。

球速とホップ成分の関係。上原は平均140キロながら、ホップ成分が大きい
球速とホップ成分の関係。上原は平均140キロながら、ホップ成分が大きい【Baseball Geeks】

 球速とホップ成分が比例関係にあるということは、球速が低いボールはホップ成分が低くなりやすい。上原のように球速が低く、ホップ成分の大きなボールは打者にとって「ミスマッチ」となり違和感を感じるボールなのだ。


 球速とホップ成分は比例関係にあるが、140キロ付近の球速帯に一度ホップ成分の大きな山ができている。この異常な傾向を作っている投手の一人は上原に他ならない。

落差の「小さい」スプリット

17年はカブスで49試合に登板した上原
17年はカブスで49試合に登板した上原【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 4シームと同様か、それ以上に上原の代名詞となっているのがスプリットだ。


 しかし、上原のスプリットは意外にも平均より「落ちない」ボールなのだ。

ボール変化量。濃い丸が上原、薄い丸がメジャーリーグ平均。上原のスプリット(黄色)はメジャー平均(薄黄色)よりホップ成分が大きい
ボール変化量。濃い丸が上原、薄い丸がメジャーリーグ平均。上原のスプリット(黄色)はメジャー平均(薄黄色)よりホップ成分が大きい【Baseball Geeks】

 上原のスプリットをメジャーリーグ平均と比べると、ホップ成分が大きいことがわかる。つまり、意外なことに平均より「落ちない」ボールなのだ。


 しかしながら、高い空振り率を誇るスプリットにはある秘密がある。


「ヤンキース時代の松井秀喜さんに言われたんですが、僕のストレートとスプリットは途中まで同じ軌道なので、どうしても的を絞りきれないと」(『Sports Graphic Number』924号より)


 松井氏が感じたように、上原の4シームとスプリットは、途中まで同じボールに見えるのだ。


 近年、メジャーリーグでは打者が球種の違いを認識しづらいような変化球の組み合わせを意識している。上原はその意識が広まる前から自然と技術を身につけていたのだろう。

リリースポイントの位置にも注目

 最後に上原の独特な投球フォームの特徴を紹介する。エクステンション(プレートからリリースポイントまでの距離)、つまり「球持ち」が非常に短いのだ。

リリースポイント。リリース高はマウンドからの高さ、リリース横はプレートから横への距離。エクステンションはホームベース方向へのプレートからリリースポイントまでの距離(カッコ内はメジャーリーグ平均)
リリースポイント。リリース高はマウンドからの高さ、リリース横はプレートから横への距離。エクステンションはホームベース方向へのプレートからリリースポイントまでの距離(カッコ内はメジャーリーグ平均)【Baseball Geeks】

 一般的に、投球指導の現場ではエクステンションが長い投手を良しとする。つまりボールをなるべく長く持ち、打者に近い地点でリリースすることを重視する。確かに物理の力積(力と時間)の観点から考えると、エクステンションの長いフォームはリリースまでの時間を長くし、ボールにより大きな力を与えることができる。


 しかし、タイミングがつかみにくいという観点においては、エクステンションが短いフォームも武器になりうる。上原のエクステンションは、メジャーリーグ平均より約20センチも短い。上原のような「球持ち」の短いフォームは、打者からするとボールが突然投球されるように錯覚するのだ。

懸念もあるが…

 上原は、ホップ成分の大きな4シームを武器にメジャーリーグで活躍してきた。日本ではどんな活躍を見せてくれるのだろうか。巨人ではセットアッパーとして起用されるだろう。特徴あるフォームから、少ない球種で勝負するタイプであることからも、リリーフ適性が強い投手であるといえる。


 一方、懸念材料が一つある。メジャーリーグでは、「球速が遅く、ホップ成分が大きい」というミスマッチで打者を困惑させていた。しかし、日本では平均球速が遅く、メジャーリーグのように「動くボール」を投球する投手が少ない。日本の打者がホップ成分の大きな4シームに慣れているとすると、メジャーリーグの打者ほど困惑させることができないかもしれない。ホップ成分が大きいボールは、フライ打球になりやすく、長打の危険性も含んでいる。


 しかし、上原には4シーム以外にも武器がある。独特なフォームから繰り出されるスプリットをうまく組み合わせれば、武器である4シームも威力を増し、日本でも活躍が期待できるだろう。


 昨年巨人は11年ぶりにBクラスに沈んだ。上原はメジャーでの経験を生かし、救世主になってくれるに違いない。いち野球ファンとして、上原の投球を今かと待ちわびている。


■上原浩治分析まとめ

・球速は遅いがホップ成分が大きい4シーム

・決め球スプリットは「4シームと同じ」に見えるボール

・エクステンションの短いフォームで打者を困惑させる

Baseball Geeks
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株式会社ネクストベースが運営する最先端の野球データ分析サイト。「ボールがノビるって何?」「フライボール革命って日本人には不可能?」など、野球の定説や常識をトラッキングデータとスポーツ科学の視点で分析・検証していきます。 "野球をもっと面白くしたい" "野球の真実を伝えたい"。これがベースボールギークスの思いです。 書籍『新時代の野球データ論 フライボール革命のメカニズム』(カンゼン)が7/16より絶賛発売中。

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