すべては平昌金メダルのために―― 限界に挑んだ森井大輝の最終戦略

瀬長あすか

不完全燃焼に終わったソチ

日本アルペンスキー界で抜群の成績を収める森井大輝が悲願のパラリンピック金メダルに挑む 【写真は共同】

 きょう開幕を迎える平昌パラリンピック。時速100キロ超のスピードで雪山の斜面を滑るアルペンスキーに抜群の実績を誇る男がいる。過去3度ワールドカップ(W杯)の年間総合優勝を達成し、パラリンピックでも銀3個、銅1個の計4個のメダルを手にしている森井大輝だ。

「W杯では過去に良い成績を出せているけど、パラリンピックで勝ったことはない。僕が唯一持っていないのがパラリンピックの金メダルです。どんなことをしても取りたいし、何が何でも手にしたいと思っています」

 パラリンピックへの出場はソルトレークシティに始まり平昌で5度目。日本代表選手団の主将も務めた前回のソチは金メダル最有力候補として乗り込んだが、荒れた雪上で実力を発揮できず、不完全燃焼に終わった。それだけに平昌に懸ける思いは強い。

「4年に一度、そこにピークを持っていくのは本当に難しくて。永遠の課題ですね。同じ条件や道具だとしても、自分の中でノッているときとそうでないときがある。技術と気持ち両方のピークをパラリンピックに合わせられるようにしたいですね」

 シーズン初めにそう語っていた森井。4年に1度しか訪れないその日に向かって着々と準備を進めている。

直近のW杯で得た手ごたえと自信

 今シーズン、用具を一新した森井にとって一戦一戦が平昌のための貴重な調整の場だった。

 2月のW杯(カナダ)では4レースに出場し、滑降で2位、スーパー大回転で3位。表彰台の中央には上がれなかったものの、平昌で戦えるという手ごたえと自信を得て帰国した。

「パラリンピック前の最後のレースでもう一段ギアを上げて臨むことができました。数カ所ミスで減速してしまう課題も見つかったんですが、用具の成熟度もしっかり確認することができて、すごく収穫の多い遠征でした」

 日焼けした顔に充実感を漂わせる。元来、負けず嫌いで順位にこだわる森井も、平昌直前の今回ばかりは本番のための調整に過ぎないといった様子だ。

「2試合目の滑降で転倒したこともあり、スーパー大回転の1本目はライン取りが消極的になってしまったんです。タイムが出なかった悔しさもありました。でもそれが、結果的に、自分の中のリミッターを外すきっかけになりました。(今シーズンは悪天候などでキャンセル続きだったが)レースの感覚もしっかりつかめました」

 ソチ後、海外の若手勢が台頭し、誰が勝つか分からない群雄割拠の様相を呈している男子チェアスキー界。だからこそ、限界ギリギリのスピードと攻めのライン取りをしなければ、森井と言えども表彰台に上がることができないのだ。

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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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