競馬界に走った激震とその行方 12/28開催と名伯楽勇退を今一度考える

角居師引退表明の衝撃

角居調教師(左)の引退報道……競馬界に衝撃が走った(写真は08年天皇賞・秋) 【スポーツナビ】

 さて、年明けに目を向けると、1月6日に一部スポーツ紙に掲載された「角居師2021年引退」の報は競馬界に衝撃が走りました。

 01年に開業後、先週の時点でJRA通算668勝。JRA・GIを24勝し、海外でもGIを5勝。07年ウオッカでダービーを、11年にはヴィクトワールピサでドバイワールドCを制するなど、輝かしい実績を誇るバリバリのトップトレーナー。その調教師が2021年2月に調教師免許を返上すると発表したのです。

 祖母の代から続く天理教の仕事を継ぐ、とのことで、引退後は競馬界から離れる。そういう内容でした。

 角居勝彦師は2013年に発足した一般財団法人ホースコミュニティの代表理事の顔も持ち、「馬を介した社会貢献の在り方」について普及、促進の先頭に立って活動されてきました。

 その取材過程で、筆者は“競馬を離れた”ところで師と接する機会がたびたびあって、一報を耳にした際に驚き半分、「なるほどそういう決断をされたか」といった、半分納得の思いが交錯しました。昨年夏頃から“予兆”を感じていたからです。

“2021年引退”発表後、つまり年明けのエピソードを紹介しますと、やっぱり競馬とは無関係のところで師と2度、話をする機会がありました。

 1度目は“シチズンオブザイヤー”なる賞の授賞式会場で、2度目はホースコミュニティ関連のシンポジウム会場でした。

 その際に「馬のセカンドキャリアもだけど、自分のセカンドキャリアもしっかり見据えないと」と笑って話されるので、「近年のこういう席でのお顔を見てますと、目が輝いてるように見えますが」と振ると、「いろんな方と知り合えて、たくさんの話を聞けて、本当に楽しいですからね」とやっぱり満面の笑顔で答えてくださるのです。

 競馬界には今もって引退を惜しむ声が多いですし、師自身も「仕事をおろそかにすることはありません」と言い切ります。それに、その日まではまだ3年近くありますから、アニメ界の巨匠よろしく、“引退撤回”が全然ないわけではない、かもしれません。

 でも、上記のやりとりから察するに、残念ではありますが、翻意の可能性は限りなく低いのかな、という思いも否めません。ホースコミュニティ関連の活動を続けることは明言していますし、そもそも、ずっと気持ちの中で燻っていた意識に、「家業を継ぐ」というタイミングが重なったことで導き出された結論のようでもありますから……。

“国際派”二ノ宮調教師(右から2人目)の勇退も寂しい思いでいっぱいだ(写真は16年皐月賞) 【写真:中原義史】

 そしてもう一人。エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタで2度の凱旋門賞2着など、“国際派調教師”の代表的存在の一人である二ノ宮敬宇調教師が、今月いっぱい、つまり今週末でもって勇退することが13日に発表になりました。

 1990年の開業から先週の時点でJRA通算676勝。重賞はGI・6勝を含む30勝。海外GI、GIIも1勝ずつ挙げています。

「外から競馬を見ようと思います」

 と、コメントを出されていますが、昨年以降は体調を崩されることも多く、聞き及ぶところによれば長い間悩み抜かれたことのよう。それこそ二ノ宮師の場合はもはや翻意は有り得ず、どうにも寂しい思いを拭えません。

名伯楽二人の決断は何を示唆するのか

 17年末、キタサンブラックの大団円に沸いたかと思うと、18年早々は現役を代表する二人の調教師が出した決断で揺れた競馬界。

 特に後者の件は、原因が調教師としての成績不振によるものではないだけに、表層的な部分を見るだけで、何の問題意識も持たずに済ませてしまっていいものかどうか。

“定年前に引退する調教師”といった広い括り方で、もっと掘り下げて考えてみていいのではないか、などと年頭に思った次第。クラシックが始まる前に、時間が許す限り考えられればと思っているところです。

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著者プロフィール

中央競馬専門紙・競馬ブック編集部で内勤業務につくかたわら遊軍的に取材現場にも足を運ぶ。週刊競馬ブックを中心に、競馬ブックweb『週刊トレセン通信』、オフィシャルブログ『いろんな話もしよう』にてコラムを執筆中。

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