フィギュアスケーターを彩るメイク術 【対談】石井勲×安藤美姫

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安藤美姫さん(左)とメイクアップアーティストの石井勲さんが、フィギュアスケーターのメイク術について語った 【赤坂直人/スポーツナビ】

 フィギュアスケートはジャンプなどの技術面だけではなく、美しさも求められる競技だ。1つ1つの技における体のポジション、手足の動き、音楽との調和、衣装……。それらすべてが一体となったとき、記憶に残る演技が生まれる。またジャッジや観客に訴え掛けるという意味では、メイクも重要になってくる。そうしたスケーターたちのメイクの指導を長年にわたり行っているのが、株式会社コーセーである。なかでもメイクアップアーティストの石井勲さんはその中心となって精力的に活動している。平昌五輪に出場する宮原知子(関西大)や坂本花織(シスメックス)らのメイクも指導している。

 一方、2007年と11年の世界選手権を制し、06年トリノ大会と10年バンクーバー大会と二度の五輪に出場した経験を持つ安藤美姫さんは、現役時代から印象的なメイクで、見る者を魅了してきた。アイスショーなどでは、コーセーのメイクルームで髪をセットしてもらうこともあったという。美へのこだわりが強い旧知の2人が、フィギュアスケーターのメイクについて語り合った。

メイクのサポートに入った当初は……

サポートに入った当初は、メイクブースに来る選手は少なかったと、石井さんは回想する 【赤坂直人/スポーツナビ】

――まず石井さんにお伺いします。コーセーがフィギュアスケーターのメイク指導を行うことになった経緯を教えてください。

石井 06年から、美との親和性の高い競技ということで、コーセーが日本スケート連盟のオフィシャルパートナーとなりました。それでメイクのサポートに入るということで、会場の一角にメイクブースを設けたことがきっかけです。ただ、最初のころは選手がなかなかブースに来てくれなかったですね。

安藤 そうなんですか。私は髪をセットしに行った記憶があります。

石井 いや、それはもっと後の方ですよ。最初のころは「誰なんだ、この人?」くらいの感じで皆さんからの冷ややかな視線を感じていました(苦笑)。後から聞くと「本当は行きたかったけど、コーチの目もあったので」と言っている人もいました。

安藤 私は自分でやっていたので、初めは知りませんでした。すみません。

石井 みんなそうでした。長洲未来ちゃん(米国)が初めてメイクブースに来てくれて、それからショーを通じて美姫ちゃんなんかも来てくれた。選手はルーティーンがあるんですよね? 朝起きて何をやってとか、メイクはここから仕上げてとか。

安藤 人それぞれですけど、私は試合前に人に触ってほしくない人なんです。あとは母が髪をずっとやってくれていました。メイクは下手でしたけど、14歳くらいから自分でやっていましたね。

石井 選手が多く来るようになったのは、07年のドリーム・オン・アイスを新横浜でやったときくらいからでした。美姫ちゃんがコーセーのメイクルームで髪をセットしたのはそのときだったと思います。それからこちらでやらせてもらうことも多くなったけど、忙しいときに美姫ちゃんは手伝ってくれるから助かるんですよ。

安藤 混みますからね。

石井 ジュニアの子が多いときはね。

安藤 ジュニアの選手はメイクもコーセーさんにやってもらうことが多いんです。男子もアイスショーのときは髪をキリッとセットしてもらいにいく。そうすると混んでいて「いつが空いていますか?」と聞きに来る。あの部屋は何人くらい入ります?

石井 最大3人くらいですね。

安藤 お手伝いしたときに「安藤さんのメイクをしてみたい」という子もいました。日本のメイクはナチュラルできれい系が多いですよね。エキゾチックなメイクをしたい子が来たときは私も「手伝いましょうか?」と言って、その部屋で一緒にメイクを手伝っていましたね。

石井 あれは助かりました。ありがとうございました。

安藤 いえいえ。面白かったです。

強いメイクを好んだ理由

『シェヘラザード』で演技をしていたとき、安藤さんは「アイホールにブルーを入れて強めで」というメイク指導を受けていた 【写真:アフロスポーツ】

――安藤さんはご自身でメイクをされていたということですが、誰かに習ったことはあるのですか?

安藤 カナダか米国で1度習ったことがあります。

石井 海外の人に?

安藤 はい。でもその人はメイクのポリシーがあり、そのままやってもらってしまって……。やはりアジアンフェイスだから私には合わなかったんです。それもあって人にメイクしてもらうことに少し抵抗がついて……。

石井 そこで抵抗がついてしまったんですね。

安藤 そのあとニコライ・モロゾフ先生に指導を受けていたときに、とあるブランドの方に1回やってもらったら、その人はアジアンフェイスに合うメイクをしてくれた。アジア人でも彫りが深いように見せるやり方を教えてもらって、すごく新鮮でした。

石井 美姫ちゃんはそういうメイクが多かった。ダブルラインじゃないけど、アイホールを意識した強いメイクですね。

安藤 それはすごく意識していました。その人は舞台でも活躍されている方で、女性の良さを引き出すのがうまかった。フィギュアスケートは、ジャッジや、近くで見ている人への表現も大事ですけど、「どれだけ遠くの人からでも表情が見えるかだよね」と言われて「この人はすごく分かってくれている」と思いました。「君はアジアの目だから、少しここに薄いラインを入れると大きく見える」といったことを教えてもらったので、その年はそういうメイクをしていました。それが07年ころです。そのシーズンは『シェヘラザード』(ショートプログラム)と『ヴァイオリン協奏曲 第1楽章』(フリースケーティング)をやっていたんですけど、特にシェヘラザードは「アイホールにブルーを入れて強めで」と教えてもらいました。

石井 確かに強い印象があります。今のスケーターは全体的にすごくナチュラルになっていますよね。美姫ちゃんみたいに強いメイクを好む選手はあまりいないかな。

安藤 そのころも私くらいでしたね。浅田真央さんもけっこうナチュラルでしたし。

石井 最近ジュニアから上がった選手はそういう人が多い。「私はここまで入れたくない」「眉毛はこうしたい」と自分のこだわりはあるんですけど、ナチュラル寄りなんですよね。

安藤 テレビ映りはナチュラルの方がいいですもんね。クローズアップしたときに濃いとドーンとなりますし(苦笑)。

――テレビでアップになったときと、会場内の遠い所から見たときにも映えるメイクは両立するものですか? バランスの落としどころはありますか?

石井 落としどころはないかもしれないですけど、個人的には美姫ちゃんのように世界観を出して、しっかりと強さのあるメイクをした方が映えるようにと思っています。ただ実際は、選手が「もっとナチュラルに」と考えていたり、テレビが寄ったときの表情の方を気にしていたりすることが多いと思います。

安藤 テレビに映ってもやはりスケートは動いているから、動いているときの表情も強い方がいい。あと写真として残ったときに、テレビの枠ではなく全体や、体のポジションを考えると、少し色があったり、強めのメイクの方がきれいな気がします。

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