フィギュアスケーターを彩るメイク術 【対談】石井勲×安藤美姫

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宮原と坂本のメイク時の様子は!?

宮原のメイクについて、石井さんは「赤を大々的に使った目元に注目」とポイントを挙げた 【坂本清】

安藤 石井さんは宮原選手のメイクをけっこうやられていますよね?

石井 毎回やっています。今季のショートは『SAYURI』ということで、和のメイクを表現しました。赤を大々的に使った目元に注目してもらえるといいかな。知子ちゃんは基本的に要望がなく、「お願いします」という感じです。最初のころはおとなしい印象だったんだけど、最近はすごく明るい。

安藤 心を開いたんですね(笑)。

石井 あと相談したのは眉の所。お母さんにカットしてもらったり、自分できれいにカットはしているんですけど、細かったり削り過ぎていたので、「ちょっとここだけは山を書いてね」というような細かいアドバイスはしましたね。

――坂本選手のメイクはやったことありますか?

石井 坂本花織ちゃんはちょうどここ(コーセー本社)で教えました。三原舞依ちゃん(シスメックス)も一緒でしたね。彼女たちも自分のこだわりが強かったです。

安藤 どういうこだわりだったんですか?

石井 「眉はこうしたい」「アイラインはここまで入れたくない」とか。指導しているコーチからすると世界観が大事で、「強さを出しなさい」と言われているみたいですけど、自分には似合わないと思っている意識がありました。普段のメイクに近い感じにしたいと。だからあえて「試合ではここまでやった方がいいよ」と、強さを出したりはしました。

安藤 私はメイクを習うときには「ガンガンやってください」と言っていました。そこから何か新しいテクニックを学べるときもあります。でも、うまくできないときもある。例えばラインをぼかすのはけっこう苦手ですね。メイクは習わないと本当に難しいです。

――男子選手のメイクもやりますか?

石井 男子選手は基本的に髪だけですね。ただ、海外の選手は「やってほしい」と言う選手も多いです。最近だと(アダム・)リッポン選手(米国)とか。「バカンスで日焼けしたようなメイクをしてくれ」と。そういう要望をしてくることはあります。あとアイスダンスはけっこう男子選手がメイクをしますね。

安藤 試合のときもパートナーがやってあげたりしますよね。

海外ではメイクが自己表現

海外ではメイクが自己表現だという。マナーや身だしなみと捉える日本とは大きな違いがある 【赤坂直人/スポーツナビ】

――国ごとでメイクの特徴はありますか?

安藤 そこまではないと思います。海外の選手は髪型も衣装も曲に合わせている。(エフゲーニャ・)メドベージェワ選手らロシアの選手もだいたい同じ感じかなと。他の欧州選手や(アシュリー・)ワグナー選手(米国)なんかは(プログラムに応じて)けっこう雰囲気を変えてきている印象があります。

石井 確かにそうですね。あとジュニア選手に限れば、日本より海外の方がメイクはうまいなと思う。本当にそこだけは違います。

安藤 海外の子の方が大人びているからかな。

石井 生まれた国によってだと思います。日本人にとって化粧はマナーや身だしなみなんですけど、海外はメイクが自己表現なんですよね。それが大きいかもしれない。

安藤 本当に海外の子は小さいときからすごく上手です。「そこまで変われる?」というメイクをします。ラインとかも色を入れますし、髪型もきちんと変える。そういう意味で、日本の子はまだバリエーションが少ないのかなと思います。

石井 普段からメイク慣れしていないのかもしれないですね。海外の選手はアイスショーの練習でもメイクをしています。

バンクーバー五輪ではクレオパトラを演じるために、ショートプログラム後に髪を切ったという 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――安藤さんはご自身のどのプログラムのメイクが印象に残っていますか?

安藤 クレオパトラ(09−10シーズンのフリー)は好きですね。衣装がエメラルドグリーンで、イエローやゴールドのストーンが入っていたので、アイメイクもイエローやグリーンでがっつり色が入っていました。自分は選手として「1位のこの人」というように名前を覚えられるより、名前は覚えられなくても「あっ、クレオパトラ」と、人々の記憶に残る演技を目指していました。ですから「クレオパトラの選手だ」と言ってもらえるとすごくうれしいです。バンクーバー五輪のときはショートの後に髪も切ったんですよ。

石井 えっ、そうだったんですか?

安藤 大きいお団子ができるくらい髪も長かった。ニコライ先生に「他の選手と全然違う印象にするように」とずっと言われていたので、ショートからフリーまで1日空いていたし、「じゃあ、クレオパトラのイメージで髪をボブにしよう」と思ったんです。

石井 すごいですね。それくらい表現力にこだわりを持っているのは素晴らしい。

――メイクという視点から、平昌五輪はどう注目するといいでしょうか?

安藤 選手としての目線で見ると、衣装と曲との一体感の中にメイクも入れてほしいですね。リンクの上は違った自分を表現できる場所でもあるし、しかもショートとフリーとエキシビションもある。ですから普段の自分が好きなメイクよりも、自分の曲に合った髪とメイクをやってほしいと思っています。

石井 同感ですね。見る人にも、メイクも衣装も曲も一つにした世界観を楽しんでもらいたいし、選手自身もそれを研究して五輪に挑んでいただきたいなと思っています。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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