女子ボクシング界の未来背負うシールズ 強敵との対戦でブレークとなるか?

杉浦大介

五輪2連覇の実績を持ってプロ転向したクラレッサ・シールズ。米女子ボクシング界の期待の星だ 【Getty Images】

 クリスティ・マーチン、レイラ・アリ、アン・ウルフ(ともに米国)、ルシア・ライカ(オランダ)――。女子ボクシングに詳しくなくとも、これらの名前に聞き覚えがあるというスポーツファンは多いだろう。その系譜を継ぐ新たなスター候補が、米ボクシング界に現れたかもしれない。

 2012年のロンドン、16年のリオデジャネイロ五輪のミドル級金メダリスト、クラレッサ・シールズはまだ22歳。アマで77勝1敗と圧倒的な戦績を残すと、20年の東京五輪で五輪3連覇を目指すのではなく、プロ入りの道を選択した。プロでもわずか14カ月で5戦5勝(2KO)のキャリアを積み上げ、早くも“米国女子ボクシング界の顔”と呼ばれるようになっている。

 現地時間1月12日(金)には、ニューヨーク州ベローナのターニングストーン・カジノで元王者トリ・ネルソン(米国)に3−0の判定勝ち。保持するWBC、IBF女子スーパーミドル級王座の防衛に成功するとともに、通称“T−レックス”は2018年を幸先良い形でスタートさせた。

まだまだ選手層が薄い米女子ボクシング界

プロでもわずか14カ月で5戦5勝の結果を残したシールズ。しかしまだ全国区レベルの知名度は得られていない 【Getty Images】

「私は自分自身だけでなく、女性ボクシングを代表する存在。史上最高の女子ボクサーと呼ばれるようになりたい」

 屈託のない笑顔でそう語るシールズは、実力とビッグマウスの両方を兼ね備えている。力任せなボクシングではなく、スキルがしっかりしているのは心強い。刑務所から出所した父の話に刺激を受けてボクシングを始めたという波乱のライフストーリーまで含め、スターの要素は十分にも思えてくる。

 もっとも、現時点でシールズがすでに全国区のビッグネームになったかといえば、そんな位置には程遠いのが現実である。12日の試合会場になったベローナは、ニューヨーク州とは言ってもマンハッタンから車で4時間の郊外。3年前のルーカス・マティセ(アルゼンチン)対ルスラン・プロボドニコフ(ロシア)戦の際には4500人を動員してソールドアウトになった会場が、この日はせいぜい数百人程度の観衆で閑古鳥が鳴いていた。

 女子ボクシングは米国においてメジャー競技とは言えない。その理由は、端的に言って、選手層が圧倒的に薄いことにある。シールズはプロ3戦目でスーパーミドル級の世界王者、4戦目で統一王者になったが、プロボクサーの戦績を記録したウェブサイト「Boxrec」によると同級の現役女子ボクサーは18人のみ。男子は967人もいることと比較すれば、層の厚さには雲泥の差がある。競技人口は全体のレベルに直結し、例え良い選手が出てきても、すぐにライバル不足になってしまう。

 過去には前述したマーティン、アリが一世を風靡(ふうび)したことはあったが、一時的な盛り上がりに終わった感があった。時に超越的な素材が出てきても、競い合う相手に恵まれなければビッグネームになることも難しい。それゆえに総合格闘技団体「UFC」のロンダ・ラウジー(米国)のようなスーパースターは生まれず、米女子ボクシングは総じてマニアックな世界であり続けてきたのだった。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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