東海大仰星が徹底した「オールアウト」 “春の挫折”を乗り越え、涙の花園制覇

斉藤健仁

優勝候補の筆頭・東福岡に会心の勝利

優勝候補の東福岡戦で魚谷勇波がトライを決める 【斉藤健仁】

「分析は生徒にさせている」と監督が言うとおり東海大仰星の選手たちは準決勝の前日、夕飯を挟んで6時間ほどミーティングを行い、相手の分析と戦い方をシミュレーションした。想定はトライ数4本対2本で勝利だった。湯浅監督は、選手たちがミーティングしている時間を使って、動画を編集し、5分間ほどのモチベーションビデオを作って、試合前に見せたという。

 準決勝、東海大仰星は「今年度一番」の試合を見せる。接点で相手に常にプレッシャーを与えて、ディフェンスでは前に出て、外を抜かれた場合も、15人が走り続けて、バッキングアップで守り、前半は相手に得点を許さなかった。またアタックでもインターセプトから1つ、モールから1つ、スクラムから1つと想定していた形で3本のトライを挙げて、21対14で前年度王者を下すことに成功した。

決勝戦は「女神も微笑んだ」

大阪桐蔭との決勝戦、SH松木からWTB河瀬にパスがつながり、勝ち越しトライを奪う 【斉藤健仁】

 そして迎えた決勝戦、相手は同じくAシードの桐蔭学園を破って、初の決勝進出となった大阪桐蔭だった。5月の大阪総体では東海大仰星が33対29で勝利していた。

 だが雨の中、序盤から戦略的に劣勢となる。強力なFWの圧力を受けつつ、左利きのSO、右利きのCTBがいる相手に蹴り合いでも負けており、前半はWTB河瀬、主将のCTB長田が素晴らしい個人技を見せて2トライを挙げたが、10対17とリードされて折り返した。

 ここで指揮官が動く。「決勝は『先手を取れ』と言っていたが、前半は後手、後手だった。だから、ハーフタイムに『いきなさい』と言いました。流れは自分たちからアクションしないと来ない。流れを自分たちに引き込むために攻撃のテンポをつくりなさい」と指示した。

「女神も微笑んだ」と湯浅監督が振り返ったように、後半は雨もやんで、「ボールを回してもいい」と心理的にプラスに作用したこともあっただろう。東海大仰星は、自陣からも積極的にボールを展開し、12分にラインアウトを起点に1年生FB谷口宜顕がトライを挙げて反撃開始。大阪桐蔭の綾部正史監督が「後半10分、15分くらいまでは上出来だと思っていましたが、この3本目のトライで相手にペースがいってしまった。相手に勢いを出させてしまった」と悔やんだシーンだった。

 このトライの後は東海大仰星ペースとなる。21分、キックカウンターからボールをつないでWTB西村高雅がトライ、さらに23分には相手のキックオフからボールを継続して、最後はSH松木勇斗が抜け出したところをフォローしたWTB河瀬がインゴールを陥れて27対20と初めてリードする。

 大阪桐蔭も初優勝へ意地を見せたが、モールでの攻撃を東海大仰星はしっかりと止めて、トライを許さなかった。「(モール対策は)熊本西、秋田工さんのおかげだと思います。ヒントになる部分や修正点がいくつもあった」(湯浅監督)。
 最後はキャプテンのCTB長田が相手のノックオンを誘って、SH松木が蹴り出してノーサイド。

湯浅監督は就任以来、5年間で3度目の優勝

優勝を勝ち取った選手たちが一体となって喜びを分かち合う 【斉藤健仁】

「昨年度、悔しい思いをして1年間やってきて、勝ててうれしい。15人がアタックでもディフェンスでも走り続けてくれたおかげ」と長田主将が全員ラグビーを強調すれば、湯浅監督は大きくガッツポーズした後、「優勝してうれしいです。生徒たちを誇りに思います。ただそれだけです」とうれし涙を流した。

「花園で優勝すると、グラウンドとスタンドが溶け合って、むちゃくちゃ最高の瞬間を味わえるんですよ! 僕はそれを知っているので、教員として選手たちに味わわせたい」という信念を持って指導している湯浅監督は、今年度も生徒たちに最高の瞬間を経験させることに成功した。グラウンドとスタンドの選手たちが肩を組んで、一緒に校歌を歌う姿を見て、指揮官は指導者冥利に尽きる、最高の瞬間を迎えた。

 湯浅監督が東海大仰星の監督に就任して5年間で3度目の優勝となった。だが、今年度は選抜は就任以来初めて予選プール敗退し、なかなか選手が持っている力を出させることができず、グラウンドを使えない時期もあった。「毎年、生徒が違いますから」と言いつつも、そんな中でも選手たちを信じ、我慢強く指導を続けた結果の上の優勝の味は格別だったに違いない。

 最後に湯浅監督に「選手はオールアウトできましたよね?」と声をかけると「はい、オールアウトできました! テーマが良かったですね!」と破顔した。きっと力を出し切ったのは選手たちだけではなかったはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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