前橋育英の悲願成就を支えた田部井兄弟 双子が見た1年前の悪夢、1年越しの絶景

平野貴也

前回大会決勝の悔しさを晴らす優勝

群馬県勢初の選手権優勝を飾った前橋育英で、共に戦った双子の田部井兄弟 【Noriko NAGANO】

 5失点の悪夢から1年をかけて目にした光景に、涙が出た。前橋育英(群馬)のMF田部井悠は、初優勝を決めたピッチ上でうれし涙を流していた。試合後のあいさつ時に、双子の弟であるMF田部井涼と目が合った。4万超の観衆が沸くスタンドを見て「この景色が見たかったんだよな。本当に長かったな」と2人で喜んだ。

 第96回全国高校サッカー選手権大会は、1月8日に埼玉スタジアム2○○2で決勝戦を行い、前橋育英の榎本樹が試合終了間際に得点を決め、1−0で流通経済大学付属柏(千葉)を破って群馬県勢初の優勝を飾った。2年生主体のチームで臨んだ前回大会は、準優勝。決勝戦で青森山田(青森)に0−5で大敗してから再スタートしたチームが、1年越しに悔しさを晴らす大会となった。

 決勝戦は、攻撃自慢の前橋育英が我慢強さを見せ、無失点で勝ち上がってきた流経大柏の赤い壁を最後の最後に打ち破る好勝負だった。

 準決勝までに7得点を挙げて得点王となったFW飯島陸が徹底マークに遭ったが、それでも決定機を演出するなど攻撃力を見せつけ、得点できなくても焦れなかった。粘り強く戦い、後半19分に巨漢FW宮崎鴻を前線に投入すると、山田耕介監督が「この大会では初めて。ここまでとっておいた」という宮崎、榎本の身長185センチ超の2枚を前線に並べるツインタワーを採用。

 エースの飯島を左サイドに移したことで流経大柏の守備バランスが崩れる中、前橋育英は田部井涼がするどいフィードを前線に飛ばし、榎本が競ったこぼれ球を飯島がシュート。相手にブロックされたが、榎本がゴールへ流し込んで決勝点を得た。

 試合終了の笛が鳴り、喜びを爆発させた前橋育英の選手の輪の中に、チームを引っ張ってきた双子の田部井兄弟がいた。

弟がチームを引っ張り、兄がフォローする絶妙な関係

双子の弟でチームのキャプテンである田部井涼(左)は、決勝点の起点となる活躍を見せた 【Noriko NAGANO】

 決勝点の起点となった田部井涼は、双子の弟でチームのキャプテンだ。3回戦の富山第一(富山)戦で右ひざを負傷して2試合を欠場したが、決勝戦で先発に復帰した。プレー面もさることながら、やはりリーダーの存在は大きかった。兄の悠は「涼は、本当に苦しい時に声をかけられる。今日は声が枯れていたけれど、相手FWのヘディングが強くて攻め込まれたときに『セカンドボールを拾ってサイドのスペースを突こう』と冷静に声をかけていて、コイツ、本当にすげえなと思った」と、弟のリーダーシップに感謝を示した。一方、弟の涼は、兄の悠の支えを受けてチームを引っ張っていた。

「この1年間、みんなと話し合ってきたけれど、一番、話をしたのは悠。振り返ってみると、うまくいかない時間の方が多かったけれど、それでも折れずに話し合ってきて、良い結果が得られた。話し合い続けてよかった。意見が合わないときもあったけれど(別の大学に進むため)2人で一緒にやれるのはこの1年がラストなので、相手の意見を聞き入れて、それから自分の意見を言う形が多かった」(田部井涼)

 インターハイ(高校総体)は、準決勝で流経大柏に敗れて涙をのんだ。高円宮杯U−18プリンスリーグ関東は優勝したが、プレミアリーグ参入戦も決勝戦で敗れた。あと一歩届かないという悔しい思いを積み重ねる度、2人はチームのことを考えて話し合ってきた。主将の弟がチームを引っ張り、兄が弟をフォローする絶妙な関係がチームを支えていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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