神村学園の高橋大悟が見せた完璧な一撃 イメージと自信を膨らませたシュート練習

平野貴也

ピッチ上で違いを見せた高橋

2試合連続でゴールを決めた神村学園の高橋大悟 【写真は共同】

 小さくても決められる、ちょっとした秘訣がある。ピッチ上で違いを見せたのは、1人のエースストライカーだった。第96回全国高校サッカー選手権大会は1月2日に関東各地で2回戦を行い、神村学園(鹿児島)は1−0で昌平(埼玉)を下して3回戦進出を決めた。

 得点者は、神村学園のエースで清水エスパルスへの加入が内定しているU−18日本代表FW高橋大悟。前半9分、神村学園は早くも相手に主導権を握られて苦しんでいたが、右サイドからのフィードをFW大山尚一が競って残したボールを左足でサッと小さなバウンドにしてコントロールすると、ショートバウンドでそのままミートしてゴール左に突き刺した。大会注目選手とはいえ、あまりにも完璧な一撃だった。

 何が見事だったかと言えば、タイミングを逃さなかったことだ。高橋は「最初はダイレクトで打とうと思ったけれど、ちょっと余裕があるなと思ったので(トラップをしました)。その後は、少しあたふたしましたけれど、シュートはどちらかというと(見て判断するというより)イメージなので、迷いなく打てました。ワンテンポ迷ったら入っていないと思うし、打ち方も変わってきたと思います。良いイメージで打てました」と得点シーンを振り返った。

 もっと良い状態にコントロールしたくなる場面だ。ボールを完全に止めてゴールとGKを見ることもできる状態だった。しかし、それではGKとの駆け引きで優位性を保てない。キックモーションを見せれば、ボールの持ち方、身体の方向などからGKに狙いを予測される。昌平のGK緑川光希は「ちょっとマークが甘くなっていたけれど、良いコースに飛んで来て悔しい。あの距離だと、ニアもファーもあると思った。予想していなかったわけではないけれど、もう少し大きなモーションになるかと思った。トラップからシュートまでがちょっと早くて反応が遅れました」と悔しがった。

シュートセンスに加えて、イメージする力が加わる

元々、シュートセンスを高く評価されていた高橋だが、今年に入ってからイメージを大きく膨らませることができているという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 高橋は1回戦の秋田商(秋田)戦に続き、2試合連続のゴール。入学時から元々、シュートセンスを高く評価されていたが、今年に入ってからイメージを大きく膨らませることができているという。きっかけは毎日、「楽しんでいるうちに、いつの間にか」200本ほどのシュートを打ち込んでいて、トレーナーからやり過ぎだと怒られているシュート練習の中から生まれた。

「GKの冨吉優斗に手伝ってもらっているんですけれど、意外なところから適当に打ってみて『GKはこんなふうに動くのか、ほかのGKもだいたい同じかな』と思いました。それなら(シュートの前にもう一度)ゴールを見なくてもいいなと思うようになりました。1回戦の得点もトラップミスをすると相手はまだ打ってこないと思っているはずなので、打ったらどうなるかなと。(意外なタイミングだと)ボールが弱くても入るというのが練習で見えてきました」(高橋)

 1回戦ではミドルレンジから振り向きざまにシュートを放ち、威力はなかったが、意表を突かれたGKの反応が遅れてゴールにつながった。常にゴールの位置とGKの思考をイメージすることで、相手の意表を突くタイミングを図ることができる。そして、どんな体勢でもミートできて、強くて精度の高いキックを打てる技術と、練習で培われた経験が、自信を後押ししてくれる。

昌平のFW佐相「『弱い自分』との勝負に負けた」

 FWは、プレッシャーとの戦いに勝たなければならない。絶対に入ると信じられる強さが求められる。そうでなければ、十分な体勢を取ることよりもタイミングを重視して打つことなどできない。悔しがったのは、敗れた昌平のFW佐相壱明だ。佐相も大宮アルディージャへの加入が内定している注目選手で、1回戦では得点を挙げた。プロ内定FW対決という見方もできる一戦だったが、佐相は前半18分に少し慌てて放ったシュートを外した。

 佐相は「強い気持ちが、自分には足りない。前半に1本打ったシュートは、もっと落ち着いて打てば決められた。自分を焦らせる『弱い自分』との勝負に負けた。悔しいけれど、力不足。高橋君の方が落ち着いていたし、技術も伴っていた。自分は、まだあそこまでいけていない。キックの精度、状況判断が本当にうまくて嫌だった」と課題を認めた。

 両者は持ち味が違う。プレスバックでボールを奪って守備を助けながら、前に抜け出せる佐相には、高橋とは異なる魅力がある。しかし、ストライカーの役割を担う以上、決定力は絶対的に求められる能力だ。その点、決めた相手と決められなかった自分の対比は、避けられないのだ。

 遊び心を持ちながら1日200球ものシュートを蹴り込み、その中でイメージと自信を膨らませ、試合で爆発させるエースストライカー。高橋から学ぶところのある日本のストライカーは、少なくないのではないだろうか。翌3日の3回戦では、フィジカル能力の高い選手をそろえる矢板中央(栃木)と対戦する。昌平にボールを支配されて疲弊した後の連戦でタフな相手と対峙(たいじ)することになるが、だからこそ意表を突く一撃に、また期待がかかる。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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