ウインターカップで輝いたスーパー1年生 有望株たちが味わった「魅力的な挫折」

大島和人

広島皆実の主軸を担う三谷

広島皆実の主軸を担う三谷(左)は、八村(右)とのマッチアップで守備の課題を痛感した 【加藤よしお】

 三谷桂司朗も1年生ながら広島皆実の主軸を担い、インターハイに続く8強入りに貢献した。今夏からはU−16代表にも定着している。

 チームは準々決勝で明成に後半突き放され、67−84と惜敗。パワーフォワードの三谷は16得点、9リバウンドと数字を残したものの、チームメートのファウルトラブルもあり、八村阿蓮とマッチアップする時間が長くなった。その八村に44得点を許すなど、インサイドの守備で試練を味わった。三谷はこう振り返る。

「体の強さが一番足りない。ディフェンスは全然できなくて、力の差を見せつけられた。(八村は)パワーもそうですが、全部ガンガン来るんじゃなくて、急にふっと緩く来たりする。その対応が難しかった」

 三谷には190センチの身長こそあるが、まだ70キロ台前半と線が細い。ただし足のサイズは32センチと特大。身長も中学卒業後に5センチ伸びているとのことで、まだ「伸びしろ」はありそうだ。

 また三谷は手足が長く、技術、状況判断といったファンダメンタル(基礎)も高水準。今大会はパワーフォワードで起用されたが、来季は監督と本人の意向もありアウトサイドに移る。彼ならガードでも違和感なくプレーできるだろう。なお三谷がお手本に挙げるのはNBAミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボ。211センチの長身と長い手足、高い技術を持ち、ガードもこなすオールラウンドプレイヤーだ。

栃木ブレックスが注目する洛南の星川

栃木ブレックスが注目する洛南の星川(左)も、3回戦で優勝した明成に敗れ涙をのんだ 【加藤よしお】

 同じくU−16代表でもあり、三谷が「自分の持っていないものを持っていて、ポジションは近いけれどまだ彼の方が上。体がしっかりしていて柔らかいシュートもある」と一目置くのが洛南の星川堅信。188センチのオールラウンダーだ。宇都宮市立鬼怒中で全中ベスト4に入り、Bリーグの栃木ブレックスからは県内校への進学を前提に特別指定選手のオファーも出ていた。

 洛南は今夏のインターハイ予選で敗退しており、星川にとっては高校入学後初の全国大会だった。洛南は3回戦で優勝した明成を59−62と1ゴール差に追い込み、終了間際のオフェンスで追いつくチャンスもある激闘を演じた。しかし結果は敗戦で、彼もおえつに声を詰まらせながら悔恨を口にしていた。

「すごい勝ちたかったです。3年生がすごく引っ張ってくれて、僕の足りないところまで計算してくれたのに応えられなくて悔しい。何かを学べたというか、悔しいことしかない」

 川内は今大会こそ2回戦で厚木東に敗れたが、夏のインターハイでベスト8入りを果たした鹿児島県の進学校。野口侑真は1年生ながらエースを任されている。身長も188センチと恵まれているが、高確率のスリーポイントシュートと高速ドリブルを持つアウトサイドプレイヤーだ。練習試合で福岡大大濠と対戦しており、横地も「ライバル心があります」と野口に一目置く。

 野口は左ふくらはぎの肉離れが影響し、今大会はベストの状態でなかった。チームも2回戦で厚木東に敗れている。それでも2回戦で持ち味の果敢なドライブを見せ、24分強の出場でチームハイの20得点を挙げた。

 他にも実践学園の江原信太朗はU−16代表で、パワーと技術を兼備する190センチのオールラウンダーだ。彼は16年のジュニアオールスター(都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会)でMVPを獲得している。また静岡学園の市川真人は県大会で敗れたものの、205センチの長身。U−18代表候補にも選出された。

指導者がつなぐ才能という「バトン」

明成に敗れ涙を飲んだ有望株たち。この経験が日本バスケをより高いステージに引き上げてくれるだろう 【加藤よしお】

 大会を終えた誰に聞いても「満足」を口にする選手はいなかった。もちろん敗戦で終わったからということもあろうが、何よりそれらは彼らがハングリーである証明。その姿勢こそは、才能以上に重要な成功の条件だ。大切なのは今後の努力だが、彼ら「スーパー1年生」は10年後、15年後の日本バスケをより高いステージに引き上げてくれるだろう。

 PGの河村は当然だが、ここで名を挙げた190センチ級の選手たちは技術的にも高水準で、外のプレーができる。大会全体を通しても「大きいだけ」の選手は見当たらなかった。現代バスケにおいて当然のことかもしれないが、それは日本バスケの今後に向けた明るい兆候だ。

 複数の選手にバスケを始めた時期と理由を聞いたが、「小学校低学年」「指導者から誘われた」という答えが多かった。日本バスケはリストラによるチーム消滅、トップリーグの分立、内輪もめが続く「冬の時代」を長く過ごしていた。また子供の数は明らかに減っていて、大きく競技人口を減らしている種目もある。

 しかしバスケ界にはそんな悪条件の中でも小まめに種をまき、地を耕してきた草の根の指導者がいた。将来を考えて基本を教え、体の成長とともに花開く「芽」を育てた人々がいた。未来への期待感が膨らむのと同時に、才能という「バトン」をしっかりつないできた指導者への感謝も湧き上がってくる――。そんな1年生有望株の活躍だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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