「宮原選手の演技には幸せが出ていた」 安藤美姫が全日本フィギュア女子を解説

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本田選手は“心”が離れていた

 6位の本郷理華選手(邦和スポーツランド)は、ループが6分間練習から良くありませんでした。タイミングが少し外れていて大丈夫かなと思っていたのですが、それが本番にそのまま出てしまいました。ただ昨季はケガもあり、精神的にも苦しい中、ショートでは素晴らしい演技をしました。まだ若い(21歳)ですし、芯がとても強い選手です。上手な選手やミスをしない選手はいますが、彼女のように心に訴えるものがある選手はなかなかいない。私は彼女のショートとフリーの演技に心打たれました。苦しいことを乗り越えてきた選手なので、ここから伸びると思っています。

7位に終わった本田については「心が離れていた」と指摘する 【坂本清】

 7位に終わった本田真凜選手(関西大中・高スケート部)は、ショートのあとに「トップにはかなわなかった」というコメントがあったように、あきらめてしまったのかなと感じました。期待されていることを分かっている選手だからこそ、そこはあきらめずもう1つ強い気持ちで、会場がパーッと明るくなる本田真凜、という空気を作ってほしかった。いつもの重みのある本田選手ではなかったように思います。「今はスケートのことを考えられない」とフリー後に言っていたそうですが、それが演技に出ていました。普段は演技中に“心”が見えるのに、それが離れているように感じました。ただ、彼女にとっても良い経験だったと思います。本人次第ですが、こういうことを経験した選手は強くなる。今は自分の時間を大切にして、好きだったスケート、好きであろうスケートと向き合って、また戻ってきてもらいたいです。

フリーで印象に残ったのは横井選手

 シニアの選手に割って入り、3位で表彰台に立ったのが紀平選手です。トリプルアクセルは最高でした。若いというのもありますし、恐らく練習から自信を持って跳んでいるんだと思います。ジャンプを跳ぶタイミングがすべて一緒ですごいなと思いますし、簡単に跳ぶなと(笑)。細かい部分でミスが出てしまうのはかわいいところです。トリプルアクセルは、あれだけ軽く跳んでいるように見えても負荷がかかるジャンプですので、まずはケガなく、体の成長とともに、自分とうまく向き合ってほしいです。今回は年齢制限もあって五輪には出られませんが、世界選手権は毎年ありますし、今後の日本を引っ張っていく選手だと思います。スケーティングも子供っぽいところがない選手で、スピンもきれいですし、そこに年齢を重ねていくうちに深みも増していくことでしょう。

フリーで印象に残ったのは横井。『バーレスク』は彼女の良さを存分に引き出す曲だった 【坂本清】

 今挙げた選手のほかに、フリーで印象に残っているのは横井ゆは菜選手(中京大中京高)です。スケーティングは正直なところ少し雑でしたが、フリーは『バーレスク』で盛り上がる曲でしたので、彼女の良いところしか出ていなかったですし、ジャンプも力強く、彼女に合っている曲だなと思いました。トリプルアクセルも跳ぶ選手ですが、体の成長が少し見え始めたので、とにかく自分の体と向き合いながら頑張ってほしいです。世界で輝ける実力はあると思いますので、今後も男前のガッツポーズを見たいところです。

 あとはショートでも挙げましたが、木原万莉子選手(同志社大)も印象に残っています。今回の試合を通して、木原選手の表現力だったり、ためるところなどは、全日本選手権を見に来たんだなと思いました。それと皆さん、竹内すい選手(大同大大同SC)がトリプルアクセルを跳んだことには気づかれましたか? あまりにさらっと跳んだので私も驚きましたし、会場もそこまで沸いていませんでした。回転不足でしたが、17位だった選手がトリプルアクセルにこの舞台で挑んでいるところにも、日本の層の厚さを感じました。

 最後に、五輪に出場する選手に向けては、「『五輪だから』と気負わなくていいんだよ」と伝えたいです。五輪では知らない選手とも選手村で過ごして、いろいろな新しい出会いがあります。集中することは必要だと思うのですが、五輪の空気感や出会いの奇跡などをかみ締めて演技すると、競技の緊張が和らぐかもしれません。代表選手は国を背負って出場しますが、競技以上に得るものがありますし、五輪に出ることだけで素晴らしいことです。もちろん結果も大事ですが、それ以上に五輪の舞台でショートとフリーを悔いなく終われるように、自分らしくいられるように、五輪に行ける感謝の気持ちと、幸せな気持ちをいっぱい持って毎日を過ごしてほしいなと思います。

(取材・構成:大橋護良/スポーツナビ)

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