坂本花織をSP首位に導いた“平常心” 積み重ねてきた自信「いけるんじゃね」

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会心の演技「全くびびらなかった」

会心の演技でSP首位に立った坂本花織 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 予兆は前日練習からあった。キレのあるジャンプを何度も決め、取材対応でも各選手が緊張感を漂わせる中、17歳の坂本花織(シスメックス)は1人笑顔を見せていた。

「シーズン最初の方は練習でもミスばかりしていて、不安なまま試合に出ることがありました。でも練習を重ねていくうちに自信がついて、今では安心して試合に臨めています」

 その言葉通り、坂本は平昌五輪の出場権が懸かったフィギュアスケートの全日本選手権女子ショートプログラム(SP)で、73.59点をマークし首位に立った。演技前半のスピンとステップはレベル4を獲得。基礎点が1.1倍になる後半に入れた3回転フリップ+3回転トウループ、3回転ループ、ダブルアクセルの3つのジャンプもすべて1点以上の加点がついた。最後のスピンこそバランスを崩しかけたが、それもなんとかこらえた。ガッツポーズが飛び出すまさに会心の演技だった。

「いつもどおりできたので得点は70点ちょっとくらいかなと思っていたんですけど、それをはるかに超えたのでびっくりしかなかったです」

 そう興奮して語る坂本は、多くの選手が緊張するこの舞台を楽しんでいるようだった。さらに言葉を継ぐ。

「一番良かったのは、ずっと平常心でできたことですね。全くびびらなかったです」

今も実践する中野コーチの教え

 元来、プレッシャーに強かった選手ではない。「試合の大小に関わらず、どんな大会でも同じように緊張していた」と坂本は言う。国際大会でも結果が出るようになったのは昨シーズンから。全日本ジュニア選手権を制した勢いを駆って、初出場したジュニアグランプリ(GP)ファイナルで3位になると、世界ジュニア選手権でも3位に入った。

 GPシリーズデビューはシニアに上がった今季。ロシア杯こそ5位に終わったが、11月のスケートアメリカでは自己ベストを大幅に更新する合計210.59点をマークし、宮原知子(関西大)に次ぐ2位となった。

 こうした結果を残せるようになったのも、平常心で試合に臨めていることが要因として挙げられる。そのために以前から実践しているのが「練習のときは試合だと思って緊張感を持って練習して、試合のときは練習通りと思ってやる」こと。坂本を指導する中野園子コーチから教えられたことで、今もそれを意識的に行っている。

 また「朝の練習では脳が働かなくて、何も考えられないのですが、試合では緊張して頭が真っ白になることもあるので、いつでもノーミスできるように意識しながら練習しています」とも語る。

 SPの演技前には、中野コーチから「やっといで〜」と軽い感じで送り出されたという坂本。あまりいろいろな言葉をかけず、坂本に適した方法でリラックスさせる中野コーチの存在も、平常心でいられる要因の1つだろう。もっとも練習のときは、叱咤されることもあるようで、「メンタルは日々、中野先生に鍛えられています。いつもきつい言葉に耐えているので」と、坂本は苦笑する。

フリーは最終滑走…この状況を楽しめるか

最終滑走で臨むフリーでも同様に舞台を楽しむことができるか 【坂本清】

 もちろんフリーで同様の結果が得られるとは限らない。2位の宮原とは0.36点差、4位の樋口新葉(日本橋女学館)とでさえ4.66点差しかない。フリーでの逆転は十分可能な差で、1つのミスで優勝どころか、表彰台すら逃すこともありうる。

 だが、この大会で今季9試合目となる坂本が積み重ねてきた自信は揺るがない。

「シーズンが始まって、自分がシニアというのはあまり実感がなかったんですけど、今季はたくさん試合に出させていただいて、試合にも慣れたし、自分がシニアなんだなというのをだいぶ実感してきました。点数も出るようになったので、自信にもなりましたね。スケートアメリカからは一気に『いけるんじゃね』って(笑)」

 まだこうしたあどけなさも残る高校2年生。自分の性格を「負けず嫌い、明るい、面白い」と分析する。独特の雰囲気を醸し出す五輪選考会を勝ち抜くには、いかにその舞台を楽しめるかというのも重要なポイントだ。プレッシャーによって本来の実力を発揮できず、暗い表情を見せる選手もいる中、坂本の明るさは際立っている。

「フリーも落ち着いてできたらノーミスでいけると思うので、しっかり自分のできることを精いっぱい頑張って、表彰台を狙っていきたいです」

 勢いは間違いなくある。フリーは最終滑走。成長を続ける17歳がこの状況をも楽しむことができれば、平昌五輪出場への一発回答もありえそうだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
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