帰ってきた“次世代エース”山本草太 全日本フィギュアで刻んだ復活への第一歩

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五輪候補にも負けない歓声

山本草太が全日本の舞台に帰ってきた 【坂本清】

 6分間練習で名前をコールされると、ひときわ声援が大きくなった。「今まで以上にありがたいことだと感じましたし、うれしいですね」。17歳のフィギュアスケーター・山本草太(愛知みずほ大瑞穂高)にとって、2年ぶりとなる全日本選手権は、復活への第一歩となる舞台だった。

 今大会は平昌五輪の代表選考会も兼ねており、候補選手たちが出場権を懸けて、し烈な争いを演じている。しかし、山本はその争いに加わっていない。にもかかわらず彼らと変わらぬ歓声を浴びていた。

 22日に行われた男子ショートプログラム(SP)で、山本は72.88点の8位につけた。決して高得点ではないが、ここまでの苦難を考えれば上出来と言える点数だろう。何より当初予定した3回転トウループ+2回転トウループのセカンドジャンプを3回転にし、さらには3回転サルコウをループにするなど、演技中に自ら難易度を上げてみせたのだ。スピンやステップもすべてレベル4を獲得。叙情的な曲に合わせた滑らかなスケーティングは見る者を引き込み、そのプログラムには山本が歩んできたスケート人生を感じさせるものがあった。

 最後のスピンが終わる前から観客は総立ちだった。スタンディングオベーションを浴びた山本は、こみ上げる感情を抑えるために、あえて平静を装っているように見えた。キス&クライで得点を聞いたときだけ、小さく微笑んでいた。

「この場にいられることが幸せ」

ジュニア時代、山本は宇野のように次世代のエースとして期待された 【坂本清】

「やっぱり試合は楽しいなと感じましたし、このSPも最初から最後まで気持ち良く滑ることができてよかったです」

 そう演技を振り返っていた山本が、声をわずかに詰まらせたのは「これまでの大変な道のりを思い出したか?」という質問に対してだった。

「試合前は思い出して……この場にいるのが幸せなことだと思いました」

 経歴を見るといかに将来を嘱望されてきたかが分かる。ジュニア時代から2学年上の宇野昌磨(トヨタ自動車)とともに日本男子の次世代エースとして期待され、2015年の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得。ジュニアグランプリ(GP)ファイナルでは14年に銀、15年に銅と2年連続でメダルを手にした。全日本選手権でも2度6位に入っている。

 順風満帆なスケート人生に影が差し込んだのは16年3月。世界ジュニア直前の練習で右足首を骨折してしまったのだ。ここから山本のケガとの戦いが始まる。シニアに移行した同年夏に今度は右足内側のくるぶしを疲労骨折し、エントリーしていたGPシリーズの出場も辞退した。度重なるケガに「スケートを辞めようかと思った」と明かす。昨秋に再び右足を痛めてからは、半年ほど氷の上にすら乗らなかった。

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