コーチを置かず試行錯誤でアジア新 変化を楽しむパラ水泳・木村敬一

宮崎恵理
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提供:東京都

増えた泳法のヒントを得る機会

「水をよけるように」泳いだ結果、木村は100メートルバタフライでアジア新記録をマークした 【写真は共同】

 練習拠点を変えたことで、さまざまなコーチからのアドバイスや言葉をヒントにすることも増えた。

「最近言われたことで面白いと思ったのが、バタフライでは“水をよける感じで”泳ぐということ」

 バタフライは水の抵抗が大きい泳法である。特に息継ぎの時にその抵抗を受ける。

「僕は1回のストロークごとに息継ぎをします。まっすぐ前に頭をあげる時に、頭が水の邪魔をしない腕の使い方ができると、水をよけられた、と感じる。そういう泳ぎだと確かにタイムが上がります」

 日本選手権でのバタフライでは、水がよけられたという。

「ゴールタッチした瞬間、1分1秒台を出せたという確信がありました」

思いついたら試してみたくなる

 レース本番に向けての臨み方も自分で考えて行動する。日本選手権直前の2日間、タンパク質を控え2時間ごとに炭水化物を摂取。マラソン選手が行うようなカーボローディング(編集注:運動エネルギーとなるグリコーゲンを通常より多く体に貯蔵するための運動量の調節および栄養摂取法)に取り組んだ。

「正直、やるかどうか迷いました。食事でストレスを抱えるデメリットも大きいからです。ただ、やっぱり試したくなった」

 1分間全力で泳ぐ水泳と、2時間走るマラソンでは運動の質は異なる。

「ウエートトレーニングを指導してくれるコーチが言うには、僕は出力するパワーが大きい。確かに瞬発力には自信がある。継続させるための力が課題だなと思っていたんです。ならば、エネルギーをいっぱい溜め込んでおいた方がいいんじゃないか。食事を制限するストレスだけが不安材料でしたが、大会の2日前、気分良く“よし、今回はやったろう!”って思えたんですね(笑)」

 さらに、「これもスタート直前の思いつきで」エネルギーゼリーを摂取した。

「それも一つの効果になったと感じられました。気持ちの問題かもしれないけれど。試してみる価値はあるな、と」

変化の先にある東京パラリンピック

自分の考えで練習を組み立てることが「楽しい」と話す木村。その笑顔からこの1年間の充実ぶりがうかがえる 【スポーツナビ】

 リオパラリンピック以降は、まさに試行錯誤の連続だ。

「パラリンピックの翌年だからこそ、新しいことにチャレンジできる。でも、まだまだ試したいことはいっぱいあります。ひらめきも含めてですけど。失敗しても、それも蓄積になる。自分が取り組んだことでどう変わっていくのか、化学反応みたいな感じなんですよ」

 世界記録に近い、アジア新。しかし、木村は現状に満足しない。

「パラ水泳では、明日突然すごい選手が登場するということが起こりうる。だから、このタイムを出せば安心、ということはありません。常に高いレベルでベストを狙っていくだけです」

 いくつもの変化を積み重ねて、目の前のレースに臨む。その先に、18年アジアパラ競技大会や19年世界選手権、そして20年東京パラリンピックへと道がつながっていくのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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