コーチを置かず試行錯誤でアジア新 変化を楽しむパラ水泳・木村敬一
増えた泳法のヒントを得る機会
「最近言われたことで面白いと思ったのが、バタフライでは“水をよける感じで”泳ぐということ」
バタフライは水の抵抗が大きい泳法である。特に息継ぎの時にその抵抗を受ける。
「僕は1回のストロークごとに息継ぎをします。まっすぐ前に頭をあげる時に、頭が水の邪魔をしない腕の使い方ができると、水をよけられた、と感じる。そういう泳ぎだと確かにタイムが上がります」
日本選手権でのバタフライでは、水がよけられたという。
「ゴールタッチした瞬間、1分1秒台を出せたという確信がありました」
思いついたら試してみたくなる
「正直、やるかどうか迷いました。食事でストレスを抱えるデメリットも大きいからです。ただ、やっぱり試したくなった」
1分間全力で泳ぐ水泳と、2時間走るマラソンでは運動の質は異なる。
「ウエートトレーニングを指導してくれるコーチが言うには、僕は出力するパワーが大きい。確かに瞬発力には自信がある。継続させるための力が課題だなと思っていたんです。ならば、エネルギーをいっぱい溜め込んでおいた方がいいんじゃないか。食事を制限するストレスだけが不安材料でしたが、大会の2日前、気分良く“よし、今回はやったろう!”って思えたんですね(笑)」
さらに、「これもスタート直前の思いつきで」エネルギーゼリーを摂取した。
「それも一つの効果になったと感じられました。気持ちの問題かもしれないけれど。試してみる価値はあるな、と」
変化の先にある東京パラリンピック
「パラリンピックの翌年だからこそ、新しいことにチャレンジできる。でも、まだまだ試したいことはいっぱいあります。ひらめきも含めてですけど。失敗しても、それも蓄積になる。自分が取り組んだことでどう変わっていくのか、化学反応みたいな感じなんですよ」
世界記録に近い、アジア新。しかし、木村は現状に満足しない。
「パラ水泳では、明日突然すごい選手が登場するということが起こりうる。だから、このタイムを出せば安心、ということはありません。常に高いレベルでベストを狙っていくだけです」
いくつもの変化を積み重ねて、目の前のレースに臨む。その先に、18年アジアパラ競技大会や19年世界選手権、そして20年東京パラリンピックへと道がつながっていくのだ。