中国戦がポジティブに評価できる理由 小林の代表初ゴールと今野の存在感

宇都宮徹壱

驚きだったリッピ氏の中国代表監督就任

中国を率いるリッピ監督(左)は来年で古希を迎える 【Getty Images】

 中国代表のマルチェロ・リッピ監督を間近で見たのは、彼が広州恒大を率いてACL(AFCチャンピオンズリーグ)を戦っていた2013年以来のこと。4年ぶりに再会したイタリア人の名将は、心なしかストレスを溜め込んでいるように感じられた。EAFF E−1サッカー選手権での韓国との初戦で、リッピ監督は22歳以下の選手6人をスタメン起用、結果として2−2で引き分けている。「若手のスタメン起用は3名まで」と予想していた中国メディアは、試合後の会見でその意図を指揮官に尋ねた。するとリッピは「22歳の選手を“若手”と呼ぶのは中国くらいだろう」と皮肉交じりに応じている。

 1948年の生まれのリッピ監督は、来年で古希を迎える。彼の息子か、さらにその下の世代の指導者がヨーロッパの第一線で活躍する昨今、ユベントスやイタリア代表での栄光もすっかり過去のものとなった感は否めない。またこの世代のイタリア人指導者は、国外に仕事を求める必要性も必然性も希薄だったため、外国語も含めて異文化への適応には一定の困難が伴う。それゆえリッピの中国代表監督就任のニュースは、(広州恒大というワンクッションはあっても)二重の意味で驚かされた。当人の決断はもちろんだが、中国サッカー協会がいささか旬を過ぎた指揮官を選んだことについても、その真意を測りかねたからだ。

 無類のサッカー好きで知られる習近平国家主席が「中国サッカー改革発展総合プラン」なるものを打ち上げて、サッカーを国家戦略のひとつに位置付けていることはよく知られている。確かに潤沢な資金を背景に、世界中からスター選手をかき集めたことで中国スーパーリーグは大いに盛り上がっているし、ACLでは広州恒大が13年と15年に頂点に輝いた。だが自国民で構成されるナショナルチームに関しては、残念な結果が続いている。14年のワールドカップ(W杯)ブラジル大会予選は3次予選で敗退。18年のW杯ロシア大会予選では、最終予選に進出したもののグループ6チーム中5位に終わった。

 5年前、中国サッカーの関係者や現地のジャーナリストに取材する機会があった。彼らは異口同音に日本の育成システムを称賛し、中国にもそうした長期的な強化プランが必要であることを強調していた。しかしその後の協会がやっていることといえば、国内リーグで23歳以下の中国人選手の出場を義務付けたり、U−20代表をドイツ4部に参戦させたり、どこか場当たり的な印象が否めない。いくら国家のトップが大号令を発して予算がつぎ込まれても、その国のサッカーが一朝一夕で強くなることはない。13億人を超える国民の期待を受けながら、伸び悩みを続ける中国代表を見るにつけ、リッピ監督の苦労を思わずにはいられない。

興味深い植田の右サイドバック起用

右サイドバックでの起用に応えた植田。伊東との縦の関係でも魅せた 【Getty Images】

 そんな中国を迎え撃つ日本のスターティングメンバーは以下のとおり。GK東口順昭。DFは右から植田直通、三浦弦太、昌子源、山本脩斗。中盤はボランチに大島僚太と今野泰幸、トップ下に土居聖真。そしてFWは右に伊東純也、左に倉田秋、センターに小林悠。前回の北朝鮮戦から7人を入れ替え、三浦、植田、山本、土居の4人が初キャップを刻むこととなった。それにしても興味深いのが、植田の右サイドバック起用。同ポジションでの実戦経験がある三浦を右に置いて、所属クラブと同様に昌子と植田でコンビを組むと思っていたからだ。伊東との縦の関係も含めて、日本の右サイドはこの試合一番の注目点となった。

 実際、序盤の日本のチャンスは右サイドから生まれた。前半4分、伊東が右サイドをドリブルで駆け上がってクロス。これに小林が頭で反応し、さらに土居が左足で触れるもシュートは枠の外に外れる。22分にも伊東が右から折り返し、相手DFのクリアボールを植田が拾って柔らかいクロスを供給。小林がヘッドで狙ったが、これも枠外となってしまう。前半30分には日本にアクシデント。それまで攻撃の起点となっていた大島が、左足の太ももを負傷してしまい、急きょ井手口陽介が投入される。その後も日本はチャンスを作り、44分には土居の左からのクロスに小林がダイビングヘッドで反応するも、またしてもゴールならず。前半は0−0で終了する。

 この日の日本は、中国が3バックで前に仕掛けてきたこともあり、前線から裏への狙いが明確であった。対する中国も後半12分と25分、右サイドから決定機を作るが、東口の間一髪のブロックとシュートミスでこれを生かせず。この苦しい時間帯をしのいだ日本は、後半30分に川又堅碁を、そして37分に阿部浩之をピッチに送り込む(OUTは伊東と土居)。そして3枚目のカードを切り終えた2分後、ようやく日本の先制点が生まれる。ゴール前の倉田の縦パスを小林がコースを変えて川又がシュート。これは相手にブロックされるも、右に流れたボールに小林が追いつき、反転しながらノールックでボールを流し込む。小林は、これがうれしい代表初ゴールとなった。

 後半43分には、昌子がセンターサークル付近から意表を突くロングシュートを放ち、これが相手GKのグローブをかすめてゴールイン。日本代表の試合で、これほど見事なロングシュートが決まったのは、06年のフィンランド戦での小笠原満男のゴール以来である。小林に続く、昌子の代表初ゴールでスタンドの高揚感は頂点に達するが、アディショナルタイムに山本のファウルからPKを献上。これをユー・ダーバオにきっちり決められてしまう。しかし、中国の追い上げもここまで。2−1で勝利した日本は勝ち点を6に伸ばし、次の韓国戦に引き分けても優勝となる有利なポジションを確保した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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