中国戦がポジティブに評価できる理由 小林の代表初ゴールと今野の存在感

宇都宮徹壱

忘れてはならないベテラン今野の存在

「UAE戦の今野が戻ってきた」とハリルホジッチ監督も今野(左から2番目)を高く評価 【Getty Images】

 この日の得点者のコメントを紹介しておこう。まずは先制ゴールを決めた小林。反転シュートの際、ゴールは見えていたかという質問に対して「自分とボール、ゴールの位置の感覚で打ちました」と答えている。ゴール以外の役割については「(前線に)技術の高い選手を並べてくれたので、自分はなるべく前で体を張ってボールを収めたり、ヘディングで競り合ったりというところはできました」と語る。そして、見事なロングシュートを決めた昌子。クラブの先輩である小笠原のスーパーゴールと比較されて「あれよりかはいいゴールでしょ(笑)」と笑いを取りながら、「まあ、僕のゴールは狙っていないし。ゴールキックになればいいかなと思っていました」と告白している。

 植田のサイドバック起用の種明かしについては、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の会見から。「中国とわれわれの選手と比べてみて(相手の)FKの戦いをどうすべきかを考えた」と、相手との体格差を埋める狙いがあったことを認めた。一方、監督との話し合いをした際に「いけます!」と即答した植田は、「自分が後ろで待ってスペースを空けてあげれば(伊東)純也君はより生きると思いながらやっていました」とコメント。とはいえ、この日は果敢な飛び出しや精度のあるクロスも供給しており、引き出しの多さをアピールできていた。これまたハリルホジッチ監督にとっては、うれしい誤算だったのではないか。

 大島の負傷やPKによる失点など、悔やまれる点もないわけではなかった。それでも、それぞれがタスクを理解しながらプレーできていたこと、スピードと縦への意識を持った攻撃ができていたこと、チャンスを与えられた選手の多くが持ち味を出せたことなど、全体を通してみればポジティブに評価できる試合内容であった。そして、キャップ数1桁の選手たちに注目が集まる中、忘れてはならないのが今野の存在感である。「UAE戦の今野が戻ってきた」とハリルホジッチ監督も高く評価していたが、ボランチもセンターバックもサイドバックもできる34歳のベテランは、その経験値も含めてロシアでも必要な存在であるとひそかに確信するに至った。

 最後に、対戦相手についても触れておこう。リッピ監督は試合後の会見で、日本の実力が上だったことを認めつつも、「私が見据えているのは19年のアジアカップであり、22年のカタールでのW杯。U−22は成長している段階だ」と、中国サッカーの未来は明るいことを強調した。しかし一方で気になったのが「中国ではサッカーに対する文化的な視点が欧州とはかなり違う。それらを考えながら全体を構築していくことが重要」というコメント。何気ない言葉のようでありながら、中国との「文化的な視点の違い」が、代表強化の上でかなりの障壁となっていることをうかがわせる。今後もさまざまな困難が予想されるが、それでもリッピ監督の中国での成功を祈りたい。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント