いくつもの顔を持つレアル・マドリー クラブW杯ではどの顔を見せるのか?
2000年トヨタカップ当日のある出来事
2000年11月28日、レアル・マドリーはボカ・ジュニオルスとのトヨタカップに敗れ、タイトルを失うことになった 【写真:ロイター/アフロ】
ボカ・ジュニオルスとのトヨタカップ(現クラブワールドカップ=W杯)を同日の夜に控え、あまりにも早い時間から多くの選手がホテルの廊下を行き交っていることについて尋ねると、彼は時差ボケのためによく眠ることができなかったのだと答えた。
カルロス・ビアンチが率いるボカはルイス・フェリペ・スコラーリのパルメイラスをコパ・リベルタドーレス決勝で破った強敵であり、睡眠不足が原因でコンディションを崩しているようなら高い代償を払いかねない。私がそう警告すると、彼は「心配ない。俺たちはレアル・マドリーだから」と自信満々に答えた。
ルイス・フィーゴやクロード・マケレレ、ロベルト・カルロス、フェルナンド・イエロ、イバン・エルゲラ、カシージャス、ラウール・ゴンサレス……。多くのクラック(名手)を擁した“ロス・ブランコス”(レアル・マドリーの愛称)はしかし、開始早々に喫した2失点を覆すことができず、1−2で敗北。そのままタイトルを失うことになった。
私は今、当時と似た印象をレアル・マドリーに対して抱いている。テクニックに優れ、FIFA(国際サッカー連盟)が選ぶ年間ベストイレブンの常連である選手たちをそろえた現在のレアル・マドリーは、実際に現世界王者であり、現行のチャンピオンズリーグ(CL)では誰もが成し得なかった2連覇を実現したチームである。クラブW杯でも今回、初の連覇の可能性を有している。
だが2017年後半のパフォーマンスを見る限り、彼らが12月13日(現地時間、以下同)にUAE(アラブ首長国連邦)で行われる開催国アルジャジーラとのクラブW杯準決勝をベストの状態で迎えるとは言い難い。
今季の不調は緊張感の欠如が原因?
セビージャを相手に5−0と大勝したが、レアル・マドリーは今季ここまで不調にあえいでいる 【写真:ロイター/アフロ】
今季のレアル・マドリーに生じている不可解な不調は、タイトル獲得とそれに伴う賞賛の嵐を受ける中で、緊張感を失いすぎてしまったことが原因のように感じられる。それは成功を手にした後に陥りがちな落とし穴だ。レアル・マドリー自身もほんの4シーズン前、カルロ・アンチェロッティの指揮下でCLを制した後に経験したばかりである。
フロレンティーノ・ペレス会長は翌シーズン終了後にアンチェロッティを解任し、ラファ・ベニテスに数カ月チームを任せた後、選手としてクラブの黄金期を築き、アンチェロッティの指揮下でアシスタントコーチを務めていたジダンを監督に抜てきした。当初は少なくとも選手たちの不満を鎮める効果はあるだろうという程度の暫定的措置と思われたが、すぐに人々はジャーナリズムを笑い飛ばす懐の深さを持ち、困難な状況でも解決法を見いだしてしまう彼に、新たなビセンテ・デルボスケ像を投影するようになった。
ジダンは至ってシンプルな手法を用い、自身に素晴らしいチームとプレーシステムを作り上げる能力があることを証明してきた。
だが今季のレアル・マドリーはそんな彼にとっても難しい難題を突きつけている。例えばけがとシステムの変更により、今はなきバルセロナの「MSN」(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)としのぎを削っていた「BBC」(ギャレス・ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)がそろうことはほとんどなくなってしまった。
ジダンも先日、再びBBCがそろうことを望んでいると話していたばかりだ。だが、けがを繰り返すベイルを尻目に才能を開花させたイスコは、今やレアル・マドリーのみならず、スペイン代表でも不可欠な存在に成長した。彼の台頭により、チームは4−3−3からイスコをトップ下に起用する4−3−1−2へのシステム変更を強いられたが、このシステムでサイド攻撃のキーマンとなるサイドバックのダニエル・カルバハルが9月末から1カ月半ほど離脱してしまった。さらにはイスコも連戦の疲労により輝きを失い、クロースもプレーの精度が落ちていった。