海外での葛藤を乗り越えた久保裕也 代表への強い思いを胸にリオ五輪へ

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U−23日本代表の絶対的エースストライカー久保に、リオ五輪への思いを聞いた 【スポーツナビ】

 U−23日本代表あらため、リオデジャネイロ五輪サッカー日本代表チームが世界へと挑戦する日が近づいている。

 これまでアジアで苦汁をなめ続け、世界への挑戦権すら手にすることができずに「勝てない世代」と揶揄(やゆ)され続けてきたこの年代の代表チーム。しかし、その風向きはすでに変わっている。今年1月に行われたAFC・U−23選手権ではリオ五輪の切符を手にしただけでなく、宿敵イラクや韓国を下しアジア王者にまで登り詰めた。この大会でチーム唯一全6試合に出場し、最多の3ゴールをマークしたのが久保裕也だ。

 スイスのヤングボーイズに所属していることで、「日ごろから日本を代表しているという意識は高い」と久保。チームで数少ない海外組ということもあり、「日本代表のために」という思いは人一倍強く持っていると言う。「僕はまだ代表では世界を感じていない」と語る久保が、3シーズンの海外経験を経て臨む初の代表での世界舞台。今、久保の目に五輪の舞台はどう映っているのか。手倉森誠監督も「この年代のストライカーが誰かと言ったら久保」と認める若き日本のエースに、世界へ挑む覚悟と決意を聞いた。

右肩上がりで成長している

――昨季、ヤングボーイズではシーズン序盤からゴールも取り好調な滑り出しだったと思いますが、終盤でけがをしてそのままシーズンを終えました。まずは、海外での3シーズン目となった昨シーズンを振り返っていただけますか?

 昨シーズンはスタメンで試合に出ることが多くなって、出場時間が圧倒的に増えました。でも、その分結果があまりついてこなかったと感じています。もっと(点を)取れたし、チャンピオンズリーグ予備予選とかヨーロッパリーグ予選も負けて、リーグ戦だけのシーズンが続きました。五輪予選もあって、予選明けまでは結構いい流れできていたんですけれど、そこでけがをしてしまった。でも右肩上がりで成長してはいると思います。やっぱり試合に出られればコンディションは自然に上がっていきますし、試合勘もあがります。そういう部分ではいいシーズンでした。

――日本ではFWとして結果を残していましたが、スイスに行ってからはトップ下での起用が増えています。どのような思いでプレーをされていますか?

 スイスに行って1〜2年目は、すごく悩みました。(前任のウリ・フォルテ)監督にはアシストだけを求められたりもしました。納得のいくプレーはできていなかったですけれど、今シーズンはすごく楽しみながらプレーすることができました。自分らしくゴリゴリいけるというか、FWらしいプレーをさせてくれる監督(=アドルフ・ヒュッター)なので、すごく気持ちよくやれていた。何が自分の中で大事なのか、というのを再確認できたシーズンでしたね。

――前任のフォルテ監督にトップ下でのプレーを求められた際、どのような説明があったのでしょうか?

 変に器用だからそういうプレーもできないことはない、ということでした。多分日本人という特徴もあると思いますけれど、監督には「香川真司みたいな選手になれ」とすごく言われましたね。フォルテ監督は「日本人=そういうプレースタイル」だと思っていたと思いますね。

 最初は自分自身でもすごく迷っていました。なんならトップ下で頑張ってうまくなっていったほうがいいのかとか、自分の日本でやっていたプレースタイルでこっちで頑張っていったほうがいいのかとか、いろいろと考えていました。でも、自分は結局トップ下の選手ではないなと思った。並以上にこなすことはできますけれど、そこで自信を持ってプレーできるかと言われたらそうでもない。僕はみんなが思うようなトップ下ではないし、10番的な存在でもない。かといって、1トップをやってもゴリゴリのバーンと行く感じの1トップではないですし、自分はどこにはめてもそれなりにこなせると思います。でもやっぱり、自分は前で勝負したいというふうに思いました。

 自分は身長がすごくあるわけでもないし、足がめちゃくちゃ速いわけでもなく、長所でこれっていうのものがない。シュートは自信はありますけれども、そういう特徴は明確にぱっと見えるものではない。そうしたらやっぱりいろいろなポジションをこなせて、点が取れる選手になりたいと思うようになりました。

――もともと海外志向が強かったと思いますが、いきなりトップ下でのプレーを要求されて、イメージしていた海外でのプレーとはギャップがありましたか?

 自分がイメージしていたのとはまったく違いました。それは環境もそうですし、最初は誰も僕のことを知らずに練習生のような感じで見られていました。なので、最初は自分のプレースタイルがこうだからこうしたいというよりは、監督に使ってもらいたい、チームに残りたい、というほうが強かったです。監督の言うように忠実にというか、気に入られるとか、そういうことを考えていた。

 けれど、もうチームでそういう位置じゃなくなってからは、自分のプレースタイルを大事にしていきたいと思っています。「アシストをしろ」と言われても、あからさまじゃないけれど強引にシュートを打ったりというのを少しずつ見せつつ、自分の特徴を出すように意識していました。そんなタイミングで監督が変わって、よりプレーがしやすくなりました。

走ることの重要性が分かってきた

ヤングボーイズでプレーし、「走ることの重要性が分かってきた」と言う久保(左)。さらに「性格もオープンになった」と変化を語る 【Getty Images】

――海外でプレーしていて、一番変化を感じる部分はどこですか?

 性格がだいぶオープンになりましたね。多分3年前とかだったら誰とも話さなかった。代表でも常に1人でいたし、今も割と1人でいる方ではありますけれど、食事会場とかでも喋るし、練習場とかでも喋るようになったと思います。

 海外での経験は絶対にプラスですよね、何に関しても。自分がもしまだ京都(サンガF.C.)にいたらと思うと絶対行ってよかったと思う。京都が悪いとかではなく、いろいろな面で確実に成長したと思います。サッカーの面もそうですし、日常的なプライベートの部分でも。

――プレー面ではどのような変化がありましたか?

 スプリントとか走ることの重要性が分かってきました。ただの素走りですけれど、ただ走ればいいってものでもない。守備の部分も練習からやらされます。最近の日本がどうなのか分からないので比較はできないですが、少なくとも僕が京都でやっていたときよりは守備がすごく求められる。でも多分他の海外のチームに行けば比重が違うところもあるでしょうし、あくまでも僕のチームはすごく守備が求められるところですね。

 でも守備をしないといけないですけれど、結果守備だけをして点が取れなかったら次の試合で外される。逆に守備をしなかったとしても点を取れば次の試合で使われる。ベテラン選手とかはうまくエネルギーを使っているし、賢さがあるなと思います。守備をやりすぎずにいいポジションを取っていて、いいところで点を取る。そういう選手ばかりだったらチームは成り立たないでしょうけれど、やっぱり前線の選手はちょっとずる賢いくらいのほうがいいんじゃないかなと最近思いだしています。

 あとは技術の部分ももっと磨いていきたいです。トラップひとつにしてもそうですし、ドリブルも相手をどうやって抜くかとか、1対1とかの練習もしていきたいです。相手をどうやってはがすかとか、ワンツーもそうですし、動き直しとかもそうです。さっき言った走りの重要性の部分ですね。走りの質とか走り方とか、動き方とか、考え出したらやることはいっぱいあります。

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