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石川祐希、3位に終わった最後のインカレ
仲間との最終戦で見せた気遣いと涙の理由

大学生活最後の試合で見せた気遣い

最後のインカレを3位で終えた石川祐希(中央)。4連覇はならなかったが、らしさを見せた
最後のインカレを3位で終えた石川祐希(中央)。4連覇はならなかったが、らしさを見せた【写真:坂本清】

 勝利まであと2点。大学日本一を決めるインカレ男子バレーボール最終日。3位決定戦で2セットを先取した中央大学が23−19と東海大学から4点をリードした場面だった。


 サーブに下がるセッターの山下紘右に、石川祐希が声をかけた。


「最後は(武智)洸史でいけよ」


「分かっている。最後は武智に上げるから」


 短いやり取りの後、山下がサーブを放ち、東海大学が小野寺太志の攻撃で23−20と1点を返す。今度は中央大学が石川のライトからのスパイクで24−20、マッチポイントを握る。


 ここで、サーバーは石川。


 決勝戦ではないとはいえ、自身にとってこれが大学生活最後の試合で、共に戦った仲間との最終戦。やはりこういう場面でサーブが回ってくるものなのだと。会場の空気は「石川のサーブで決まるのではないか」。そんな期待感が高まる。


 だが、石川が放ったサーブは相手のエンドラインを大きくオーバーする。その真意を、共にコートで戦う4年生たちはすぐに理解した、と山下は言う。


「絶対にわざとミスしたなって。自分のサーブで勝負するのではなくて、サーブをアウトして、サイドアウトからの攻撃で武智に決めさせろっていうことだなと。自分も同じ思いだったので、最後は迷わず武智に上げました」


 マッチポイントのまま、相手のサーブを切り返し、1本目はブロックされた。しかし、「祐希と山下が話していたのを見て『最後は絶対自分に上がってくる』と思っていた」という武智が2本目を決め、25−22。中央大学がストレートで勝利し、有終の美を飾った。

石川「どうしても武智に回したかった」

涙で言葉を詰まらせたコートインタビューの言葉に、すべてが込められていた
涙で言葉を詰まらせたコートインタビューの言葉に、すべてが込められていた【写真:坂本清】

 試合後、コートインタビューで石川は涙で言葉を詰まらせた。


「この4年間で最後の試合なので、チームメートのために、スタッフのために戦いました」


 その言葉に、すべてが込められていた。大学生活最後の1本になった、あの24点目のサーブもそう。


「(外したのは)わざとです。最後、どうしても武智に回したかった。自分はほとんどチームにいなくて迷惑をかけたんですけれど、その間キャプテンとしてやってきたのが武智で、彼のほうがずっと大きいプレッシャーを背負っていた。だから最後は武智でと思っていました」


 周囲からは「石川がいたら勝つだろう」と言われることもあり、勝っても負けても注目されるけれど、バレーボールは1人でできるスポーツではないのだから、自分が主役でなくてもいい。チームが勝つために万全を尽くす。まさにそれが、石川にとっての大学生活だった。

迷いが生じて敗れた準決勝の筑波大学戦

筑波大学戦は勝負どころで石川にトスが集まらず。悔しい敗戦となった
筑波大学戦は勝負どころで石川にトスが集まらず。悔しい敗戦となった【写真:坂本清】

 それでもこの4年間、大学バレーボールの主役は石川だった。


 入学直後からレギュラーとして試合出場を重ね、リーグ戦や数々のタイトルを制覇。全日本インカレに至っては、入学以来負けなしの3連覇を達成。自身は「あまり気にしていない」と言うが、最終学年で臨んだ今大会は4連覇が懸かっており、もし勝てば日本一の称号を一度も逃すことなく大学生活を終える。


 当然ながら他校のライバルたちにとって、「絶対に負けたくない」と思う相手は常に中央大学であり、石川はその象徴だった。


 最後のインカレで、それが最も強い形で現れ、発揮されたのが準決勝。対戦相手である筑波大学は、中学、高校時代は石川とチームメートとしてプレーし、高校6冠(2年連続3冠)を達成したセッターでキャプテンの中根聡太を中心に、攻撃だけでなく守備面にも磨きをかけ、万全の準備をして決戦に臨んだ。


 1、2セットは中央大学が連取したが、第3セットから流れが変わる。中根が「自分たちがやってきたことを信じて、ブレずに、心も揺れず、やるべきことを最後までできた」と振り返ったように、劣勢でもサーブで攻め、コート中央からのクイックやバックアタックを軸に多彩な攻撃を展開。鉄壁のディフェンスでボールをつなぐ筑波大学に対し、中央大学には迷いが生じる。


 リーグ中ならばセンターや両サイドを使って難なく取っていたはずのサイドアウトが取れなくなり、オポジットの大竹壱青にボールが集中したところで連続失点し、筑波大学が逆転した。松永理生監督からも「トス回しをもう一度考えるように」と指示を受けた山下だが、一度生じた迷いはなかなか拭えない。そこで石川に上げれば、と誰もが思うのだが、山下は「石川の体を気遣い、簡単に使いすぎないようにと思いすぎてしまった」と言うように、石川にトスを集めることを躊躇(ちゅうちょ)した。


 1、2セットまでは勝負どころでは迷わず石川の攻撃を選択していたが、3セット目からはあえて石川の打数を抑える。その微妙な変化や揺れに、石川も気付いていた。


「自分自身は全然(けがを)気にしていなくても、山下は気遣ってくれて、そんなに(トスを)上げてこなかった。そこで決め切れればよかったですけれど、練習の時から同じような状況が何度もあって、なかなか攻撃が通らなかった。それが結果になって出たのが筑波との試合で、そういう状況に追い込ませた筑波の方が、自分たちよりも上でした」

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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