石川祐希、3位に終わった最後のインカレ 仲間との最終戦で見せた気遣いと涙の理由

田中夕子

3位決定戦で見せた会心のプレー

東海大学戦では会心のプレーを見せ3位に。清々しい表情で石川は胸を張る 【写真:坂本清】

 翌日、東海大学との3位決定戦。4連覇は潰えたが、最後の試合は負けたまま終わりたくない。そんな気迫溢れるプレーで第1セットから東海大学を圧倒し、2セットを連取。そして第3セットも16−10と中央大学が6点をリードして迎えた中盤、悔恨を吹き飛ばすような会心のプレーが生まれた。

 東海大学の新井雄大が放ったスパイクをバックライトの大竹がレシーブし、バックレフトの遥か後方へ飛んで行ったボールを石川が追いかけてつなぐ。チャンスボールからの相手の攻撃を切り返し、山下は、即座に猛ダッシュでバックセンターに戻った石川へトスを託し、石川がバックアタックを決めた。

「あの場面は(トスを)呼びました。昨日(筑波大学戦)のこともあったので、今日は3セット目の途中ぐらいから『ちょっとトス、集めようか』と伝えていたので、山下も感じ取ってくれたんだと思います」

 最後に日本一になれなかったことは悔しい。だが、清々しい表情で石川は胸を張る。
「求めていた結果とは違いましたが、最終日の第3セットが一番頑張れた。勝つのは甘くないとあらためて分かったし、勝ち続けられなかったということが、今後にも生きてくるんだと思います」

石川が同世代に与えた刺激

ハイレベルな戦いを制した早稲田大学。主将の喜入は、「石川のおかげで努力できた」という 【写真:坂本清】

 高校時代から負け知らずで、常に世代の先頭にいた。

 ライバルたちにとってはいつだって、倒さなければ日本一になれない壁。高校時代から日本一を懸けて何度も戦い、決勝では筑波大学を下して4年ぶりの優勝を決めた早稲田大学の喜入祥充主将はこう言う。

「石川がいたこと、石川を倒すことを目標にやってこられたおかげです。自分たちを高めてくれた。日本一の壁が高ければ高いほど努力する。だから、周りのどの世代よりも僕らは努力できたと思います」

 準決勝の筑波大学vs.中央大学の試合も決勝戦も、いかなる時でもサーブで攻め、相手の強さを消し、弱いところを突く。ハイレベルな戦いが繰り広げられた背景には、世界を見据え石川が実践してきた姿を追いかけてきた成果があった。

 そして、影響を受けたのはライバルたちだけではない。チームメートにとっても常に特別な存在だったと言うのはマネージャーとして4年間を過ごした江畑雄士だ。

「僕も中学は愛知で、県大会からずっと石川に負け続けてきました。当時から石川はすごくて『こんなヤツがいたら絶対に勝てないよ』って思っていたけれど、味方になったらこんなに心強い存在はいなかった。今も昔も、ずっと憧れでした。いつか『石川世代』と言われるようになるなら、その石川と同じチームでやってこられたことを誇りに思います」

再び渡欧し、世界を見据えた戦いへ

石川は「ベストスコアラー賞」と「スパイク賞」を受賞。再び渡欧し、レベルアップを目指す 【写真:坂本清】

 インカレを終え、中央大学での選手生活に区切りをつける。石川は5日に再び渡欧し、世界を見据えた戦いが始まる。

「大学の枠が外れたことによって、自分自身のメンタル、モチベーション、気持ちも変わってくると思うし、それは今後、時が経ったら分かるものなんだと思います。まずは今あるベストを最大限に尽くして。これからは自分のために頑張っていきたいです」

 それぞれのステージで、レベルアップを遂げた同世代の選手たちとともに戦うその日に向けて――。

 今、新たな一歩を踏み出していく。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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