完全復活を目指す桃田よ、牙を取り戻せ コートでは“謙虚さ”と“強さ”の両立を

平野貴也

得意なネットの攻防で後手に回る

ネットの攻防が得意であったが、準々決勝では後手を取ることが多かった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 桃田は、試合後に「今は代表復帰のことより、応援してくれた人がいたのに勝てなくて申し訳ないという気持ち。世界ランク2位は、過去の話。(東京五輪も)今の自分の実力ではそこは見えないんじゃないかと思う」と謙虚に話した。資格停止処分で足元を見つめ直す機会を得て、出直しを強く意識しているようだ。「以前より楽しめている。復帰してからは、試合ができる、コートに立てる喜びがあって、帰ってきたなと感じる」と話すなど、どこかすがすがしさを漂わせた。ただ同時に、コート上で相手を飲み込むような思考の強さや気迫が消えてしまったように見えた。

 敗れた準々決勝は、ネット前の攻防で先手を奪われた。桃田は、ネット前からネット前へ落とすヘアピンを得意としている。難しいショットだが、技術に自信があり、思い切って仕掛けるため、相手がネット前の勝負を避けようとすることが多い。しかし、この試合では武下が「(桃田の復帰後に)2回対戦して、そんなに苦手なネット(へのショット)ではなかったので、行くときには(自分から積極的にネットへ落として)切りに行けていた」と先にネット前の攻防を仕掛け、甘い返球をたたいた。

 ネット前の勝負を先に仕掛けられることもある。ただ、それなら前に出ようとする相手の足が止まるように揺さぶりをかければ良い。技術があるのだから、幅広い戦術で戦うことが可能だ。しかし、受け身になった桃田に対抗策はなかった。

「相手がなかなかミスをしなくて、ネット前も(自分よりも高い位置で打てる状況で)上に入っていた。相手が先にラリーを切りにきて、準備ができていなかった。ミス待ちではダメ、攻めに行こうと思ったけど、そんなに簡単に決まらず、最後は押し切られるというパターンだった。押し返されたとしても、次のラリーでもう1回強気に行ければどうだったか。1回やられたぐらいで弱気になったところがダメだったと思う。以前なら自信を持って高さのあるロブを打ったと思うけど、余裕がなくて簡単に後ろに弾いてしまった」

桃田「これで終わりじゃない」

A代表に復帰を果たしたが、20年東京五輪への課題も大きく見えてきた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 相手の積極性に負けずにけん制を仕掛け、前に出ようとし過ぎたら背後を突かれて危ないと思わせる――思考で先回りする余裕を持てれば、主導権を握れたはずだ。だが、桃田は逃げ腰だった。返球するだけで精一杯になり、中途半端に高い球を返して、バックステップをした武下に強打をたたきつけられる場面もあった。

 自ら仕掛ける牙が抜け、消極的になってしまった。反省も謙虚さも必要だが、コートに立ったら、思い切りよく、スーパープレーを見せて会場を沸かせることに楽しみを見いだす桃田に戻らなければならない。「調子に乗るな」「反省しろ」という社会的な制裁の後で、「コートでは堂々としろ」「勢い付け」というのは難しい注文だが、反省を要求した社会は、コートの中で縮こまることを求めているわけではない。

 A代表復帰が確実となり、20年東京五輪に向けた道のりが見えてきたが、大きな課題も見えた。謙虚さと強さを兼ね備えなければ、夢への遠回りは昇華できない。桃田は「これで終わりじゃないと思っている。もっと強くなった姿を見てもらいたい」と語った。コートの中で牙を取り戻したときに、五輪金メダルの可能性は再び開ける。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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