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名古屋のJ1昇格と「美しい物語」の行方
J1昇格プレーオフ決勝 名古屋vs.福岡

両者の持ち味が最大限に発揮された決勝戦

シモビッチに仕事をさせなかった19歳の冨安健洋(14)。手堅い守備を誇る福岡だが、あと一歩及ばず
シモビッチに仕事をさせなかった19歳の冨安健洋(14)。手堅い守備を誇る福岡だが、あと一歩及ばず【宇都宮徹壱】

 前半の見どころは、ウェリントンとワシントンによるマッチアップであった。デュエル(球際の競り合い)の部分ではワシントンが対応できていたが、空中戦では苦労を強いられた。右サイドからは駒野の正確なクロスが、そして左サイドからは亀川諒史のロングスローが、ウェリントンのちょんまげ頭を狙ってくるからだ。前半19分、亀川のスローインにウェリントンが頭で反応。いったんはクリアされるも、山瀬がバー直撃のミドルシュートを放ち、さらに仲川輝人が詰める。しかしこれは、名古屋GK武田洋平がしっかり受け止めた。


 名古屋も反撃に出る。前半28分、中盤でのインターセプトからカウンターを仕掛け、ガブリエル・シャビエルのパスを受けた青木亮太がニアサイドにシュートを放つも、これは福岡GK杉山力裕が好セーブ。34分と40分には、田口泰士がいずれもミドルレンジからゴールを狙ったが、これまた杉山のセーブに阻まれる。そして42分、今度は佐藤寿人のパスに和泉竜司が走り込み、巧みな切り返しから放ったシュートはギリギリで枠の外。両者とも決定機を生かせないまま、前半は0−0で終了する。


 プレーオフのレギュレーションでは、このまま引き分けで終わればレギュラーシーズンの順位が優先されて名古屋の昇格が決まる。それでも風間監督としては、なるべく早く先制して試合を優位に進めたいはずだ。後半8分には佐藤に代えて玉田圭司を投入し、名古屋の前線はさらに活性化してゆく。しかしその5分後、福岡は駒野の右サイドからのクロスにウェリントンがヘディングで合わせ、ネットを揺らした──かに見えたが、すぐさま副審がフラッグを上げてオフサイドの判定。非常に微妙な判定ではあった。


 後半も半ばを過ぎると、中盤で激しくボールを奪い合う展開が続き、攻守が目まぐるしく入れ替わる。後半31分には青木が、そして39分には玉田がビッグチャンスを迎えるも、やはりゴールは遠い。福岡は杉山の好判断に加えて、19歳のセンターバック冨安健洋の冷静かつ堂々としたディフェンスが光り、シモビッチにほとんど仕事をさせなかった。終盤には、福岡の選手たちが名古屋陣内に殺到。風間監督がようやく守備固めのカードを切ったのは、45+2分であった(シモビッチに代えてイム・スンギョム)。


 そして、長い長いアディショナルタイムを経て、ついに終了のホイッスル。豊田スタジアムのスタンドは、まるでJ1優勝を決めたかのような大歓声に包まれる。確かに、ゴールが見られなかったのは残念であった。それでも決勝戦にふさわしい、両者の持ち味が最大限に発揮された、非常に見応えのある試合内容であったと思う。かくして名古屋のJ1昇格が決まり、風間監督は「美しい物語」を見事に完結させた。

風間監督の「美しい物語」はまだ道半ば?

J1復帰を果たした名古屋の風間八宏監督。だが本当の意味での「美しい物語」の完結はこれからだ
J1復帰を果たした名古屋の風間八宏監督。だが本当の意味での「美しい物語」の完結はこれからだ【宇都宮徹壱】

 決勝でのスコアレスドローは初めて。オリジナル10のプレーオフ優勝も初めて。そして、プレーオフによる1年でのJ1復帰チームも初めて。終わってみれば、今年のプレーオフは初めてづくしのファイナルとなった。そして名古屋のスコアレスドローというのも、今季に限って言えば実に珍しい(5月7日のモンテディオ山形戦の1試合のみ)。むしろホームでの愛媛FC戦(7−4)、あるいはアウェーでのFC町田ゼルビア戦(4−3)のように、失点を攻撃力で帳消しにするかのような試合が続いていた。リーグ戦42試合で無失点で終えることができたのは、わずかに7試合である。


 それだけに、昇格が懸かる大一番で相手の怒とうの攻撃をゼロに抑えたのは驚きであった。試合後の会見で、「このプレーオフでは、現実的な戦い方をしたのか?」という質問が出たのも当然だろう。しかし指揮官の答えは「一度も変えていないですね。相手をどう動かしていくかというところは、まったく変えていない」。そして、手堅い守備と集中力が途切れなかったことについても「1人1人の戦術のところは(意識が)高くなっている。トレーニングの中で、しっかり根拠のある守り方をしてくれた」。要するに、何も特別なことをしていない、というのが風間監督の主張なのである。


 風間監督の「まったく変えていない」という発言は尊重するとして、それでもこの1年で、指導者としての新たな境地を切り開いたことは間違いないだろう。正直に言えば、J2に降格した名古屋が「1年でのJ1復帰」というミッションを風間八宏という指導者に託したとき、「それはちょっと違うんじゃないの?」と思った。なぜならこの人は「求道者」タイプであり、いわゆる「昇格請負人」には思えなかったからだ。きっと素晴らしいフィロソフィーやメソッドを名古屋というクラブにもたらすだろうが、それが血肉となるには時間がかかるだろう。当初、そう思っていた。


 しかし風間監督は、きっちり帳尻を合わせた。のみならず、「もっと(選手の実力を)伸ばしていかないといけない」、あるいは「もっと魅力的なサッカーでお客さんを呼べるようにならないと」と語っている。おそらくこの人にとって、J1復帰はあくまで通過点。目標は、さらに先にあるのだろう。たとえば──来季、チャンピオンとなった古巣の川崎と堂々と渡り合い、相手よりも魅力的なサッカーの展開した上で勝利する、とか。実はそれこそが、風間監督が思い描く「美しい物語」のようにも思えてくる。そうして考えると、シーズンが終わったばかりではあるが、早くも来季のJリーグが待ち遠しく感じられるではないか!

宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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