3人のライターが予想する選手権の行方 優勝候補は7校、ダークホースにも期待

スポーツナビ

筆頭は青森山田、前橋育英や流経大柏も有力

激戦区の千葉予選を勝ち抜いた流通経済大柏(左)だが、もろさも見えるとライター陣は指摘する 【写真:平野貴也】

――ここからは、より具体的な学校名を挙げていただければと思います。ズバリ今大会の優勝候補を挙げるとすればどこでしょうか?

安藤 僕は群馬県代表が前橋育英に決まれば、前橋育英に大きな可能性を感じますよね(編注:群馬県決勝は23日に行われ、前橋育英が代表校に決定)。

川端 隣(のブロック)には東福岡(福岡)が上がってくる可能性のある、福岡県代表枠がありますが?

安藤 そこは最大の山場になりますよね。インターハイのときは東福岡を下した青森山田を前橋育英が下しました。この試合は非常にハイレベルでしたし、本当に見てみたいカードですよね。

平野 連覇を狙う青森山田は筆頭候補と言えますよね。強豪がそろったAブロックの中でも、二重マルを打っていいサッカーを実際にしていると思います。

川端 選手もそろっていますし、必ず(優勝候補に)名前が挙がりますよね。

安藤 千葉は流通経済大柏か市立船橋。毎年ここのつぶし合いは正直もったいないところです。毎年この2チームはこの時期にはほぼ完成形になっていますが、今年はまだ完成形まではいたっていません。逆に言えば、さらに化ける可能性を秘めていると言えます(編注:23日に行われた千葉県予選決勝で流通経済大が優勝し、選手権の切符をつかんだ)。

平野 そうですね。「千葉県代表はすごい!」と思っている人にとっては、今年は少し「あれ?」となる可能性があります。

安藤 それでも流通経済大柏はインターハイ(高校総体)優勝、市立船橋はベスト4ですから、本当に元々の土台が違いますよね。

川端 インターハイの流通経済大柏は内容的に厳しかったですから、勝負強さはまちがいない一方で、絶対的な優勝候補という印象はないでしょう。

平野 ただ、伝統校は大舞台で勝つすべを知っているので、ふたを開けてみないと分からない部分もありますね。

川端 ノウハウがありますからね。そういう意味では、長崎総科大附(長崎)の監督(国見高での優勝経験を持つ小嶺忠敏監督)はすごいノウハウを持っていますよね(笑)。

平野 さっき安藤さんが前橋育英を挙げていましたが、間違いなく優勝候補に入ってくるチームですよね。

川端 間違いない。それは東福岡も同じです。

安藤 そうなった場合は、Dブロックの3回戦で東福岡と前橋育英が当たる可能性が高いので、そこで勝ったほうが決勝までいく可能性は十分にありますね。それくらい勝った方に勢いがつく一戦なのではないかと。もちろん準決勝まで上がってきそうな大阪桐蔭(大阪)と京都橘(京都)も、ものすごく良くなっていますから、一筋縄ではいきませんが。

平野 京都橘の冬の仕上がりはすごいですからね。

安藤&川端 ただキャプテンの河合航希がけがでいないのは痛い。

平野 選手権が終わって、2月とかに新チームを見ると失礼な話ですけれど、正直、かなり弱いんですよね。米澤(一成)先生も「今年は、もう取材してもらえる機会もこれで最後です」とふざけて言ったりするんですよ(笑)。でも冬の選手権では強くて、“仕上げる力”が半端ないんですよね。

川端 去年も市立船橋戦はぎりぎりのところまでいったからね(編注:前回大会では1回戦で市立船橋に0−1と惜敗)。

安藤 あの一戦で市立船橋が燃え尽きたのではないかと思うくらい、追い詰めましたもんね(編注:市立船橋は京都橘との1回戦を制した後、2回戦で前橋育英に1−3で敗戦)。

平野 京都橘は船橋で招待大会をやったときには、市立船橋にボコボコにされたんですよね。それなのに、冬になったら市立船橋が京都橘とはやりたくないと言うくらいのチームに仕上がっているんですよ(笑)。

安藤&川端 監督力ですね。

ダークホースとして名前が挙がる旭川実業

ダークホースとして名前が挙がった旭川実業(北海道)。今夏のインターハイではベスト8という成績を残した 【安藤隆人】

川端 ダークホースとして名前を挙げるなら旭川実業(北海道)ですね。今夏のインターハイではベスト8という成績を残しています。

安藤 クリエーティブですし、非常に良いチームですね。

川端 カウンターも速いですしね。ただ、旭川は北海道でも有数の豪雪地帯なので、どこまで選手権に向けた良い準備ができるかというところ。道外合宿を張るにしても、長すぎると選手が精神的に疲れちゃいますから、ここは難しい。

平野 選手権予選の準決勝を見た限りでは、インターハイからそこまで上積みできている感じはまだしなかったけれどね。

安藤 立正大淞南(島根)と2回戦で当たったら面白そうだよね。旭川実はとにかく中盤の構成力に長けている。旭川実の子はフットサルでも良い選手が出てくるように、もともと技術のある子が多いので、やっぱり足元がうまい子が多いんです。

川端 旭川実業は、もともと守備的なサッカーをすることで有名で、堅実なスタイルで結果も出していました。北海道の代表になって、プレミアリーグがはじまって2年目のメンバーにも入っているんですけれど、その1年(2012年)で1分け全敗と、とにかく負け続けたんです。かなりのダメージを受けた。このままのスタイルだと、北海道の代表にはなれても、全国大会で勝てるイメージはまったく持てなくなってしまった。

 そうして、監督の富居(徹雄)さんは堅守速攻という伝統的なスタイルをやめよう、という結論に至った。ちゃんとテクニックのある子を集めて、ボールを扱えるチームにしようと、スカウトする選手のタイプも変えました。それで一度、勝ちづらくはなったんですけれど、それは「産みの苦しみ」だと割り切って改革を進めた。結果、ひとつの形が見えてきたのが、今年のチームだと思います。

平野 千葉県代表は注目だけれど、今年は若干不安ですね。

川端 両チームとも今年は狙ったようには(強化が)進んでいない印象はありました。

平野 両校ともポテンシャルは非常に高いですし、優勝候補に入るんですけれど「ベスト4は確実」とか「ベスト8には100パーセント入る」と言える安定した強さは、今年はどちらも欠いている印象があります。

川端 ただ、予選から本戦(選手権)までの“化けさせ方”を知っているチームですし、県大会を突破しただけで満足する学校ではないので、そういう意味で(優勝は)あるかもしれないです。誰もが挙げる優勝候補となると、青森山田、長崎総科大附、千葉県代表(流通経済大柏)、昌平、大阪桐蔭、福岡県代表(東福岡)、群馬県代表(前橋育英)……そんなところじゃないでしょうか。でも、こんなことを言っていても、蓋を開けてみればまるで違う高校が上がってくるのが選手権の醍醐味(だいごみ)です(笑)。

川端 まだ決まっていない神奈川県代表は、桐光学園が筆頭に挙げられますが、プリンスリーグの前半では0勝4分け5敗とダントツの降格候補で、インターハイ予選もあっさりと負けてしまった。ただ、後半戦は5勝2分け1敗と驚異的に持ち直してきました(第16節終了時点)。もともとポテンシャルはあるチームだったので、少し“化けてきた”感はあるかもしれません。ただ、(県予選決勝の相手となる)桐蔭学園も面白いですよ。元々テクニカルな選手の多い高校ですが、いまはチームとしてすごく団結して戦う集団になっている。

安藤 桐光学園は戦力という意味では間違いなく(県予選で残っている4校の中では)一番ですね。

平野 優勝候補とは1つ下の「ダークホース」みたいな扱いですね。

川端 でも「ダークホース」がしばしば勝つのが選手権。まだ大会まで1カ月あるし、その1カ月で良くも悪くも変わるのが高校生ですから、予選から本大会までの期間で遂げる変化もまた選手権の面白さだと思っています。

安藤隆人

【スポーツナビ】

大学卒業後、5年半勤めた銀行を退職して単身上京し、フリーサッカージャーナリストに転身した異色の経歴を持つ。ユース年代に情熱を注ぎ、日本全国、世界各国を旅し、ユース年代の発展に注力する。2012年1月にこれまでのサッカージャーナリスト人生の一つの集大成と言える、『走り続ける才能たち 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)を出版。筆者自身のサッカー人生からスタートし、銀行員時代に夢と現実のはざまに苦しみながらも、そこで出会った高校1年生の本田圭佑、岡崎慎司、香川真司ら才能たちの取材、会話を通じて夢を現実に変えていく過程を書き上げた。13年12月には実話を集めた『高校サッカー 心揺さぶる11の物語』(カンゼン)を発刊。ほかにも『高校サッカー聖地物語 僕らが熱くなれる場所』(講談社)、があり、雑誌では『Number』、サッカー専門誌などに寄稿。昨年まで1年間、週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』を連載した。

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川端暁彦

【スポーツナビ】

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『サッカーマガジンZONE』『月刊ローソンチケット』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行。

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平野貴也

【スポーツナビ】

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

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