強豪相手の欧州遠征をどう評価すべきか? 不明確な「ビッグ3」招集外の意図

宇都宮徹壱

期待が持てた前半の戦い

後半、ベルギーでプレーする森岡(14番)や久保(右)がピッチに入ると観客からは激しいブーイングが送られた 【Getty Images】

 序盤の日本は慎重であった。むやみに前からプレスをかけるのではなく、最初はミドルからローのポジションからのブロックが基本。しかし、いわゆるドン引きサッカーではなく、マイボールにしてからの攻撃という意識もきちんと感じられた。開始2分、自陣からの吉田のフィードが前線に渡り、相手のクリアを拾った浅野がドリブルで仕掛けてシュートを試みる。結果としてブロックされるも、「いいイメージを持って(試合に)入れたと思います」と浅野本人が語るように、十分に期待が持てるイントロダクションだ。

 とはいえ、試合の主導権を握っていたのはベルギー。警戒すべきは、193センチの高さを誇る、典型的な9番のロメル・ルカクだけではない。その左に控える、14番のドリース・メルテンス。同サイドから勢い良く仕掛ける22番のナセル・シャドリ。そして、中盤から絶妙なスルーパスを供給し、自らも積極的にシュートを放つ7番のケビン・デ・ブライネ。対する日本は、ルカクには吉田と槙野が身をていしてケアし、相手の左サイドには対面の酒井宏が、そして中盤には山口を中心とする3人がしっかり対応していた。時おりヒヤリとする場面もあったが、この日の日本は「落ち着いてやれば、これくらいできる」ことを証明してみせる。前半は0−0で終了。

 後半16分、日本ベンチは最初の交代カードを切る。長澤アウトで森岡亮太イン。この日の長澤について、指揮官は「初めての代表戦にしては、本当によかったと思っている。もっと攻撃面で顔を出してほしかったが、たくさん走り、たくさん守備もしてくれた」と高く評価している。海外遠征、しかも格上の相手に対して、代表初キャップの選手を起用するのはかなり勇気がいる采配であると言えよう。失敗すれば監督は批判され、当の選手も大いに傷つく。だが幸い、今回の長澤に関しては及第点を確保することができた。

 しかし後半27分、ついに均衡が破られる。要注意人物の1人、シャドリが左サイドからドリブルを仕掛けると、まず森岡と久保裕也(後半23分に途中出場)の寄せを振り切り、次に対応した吉田の背中をすり抜け、さらに槙野のスライディングをものともせずに山なりのクロスを供給。これをルカクがファーサイドから頭で押し込み、ついにベルギーが先制点を挙げる。吉田は「一瞬、全員が気を抜いてしまった。(ペナルティー)ボックスに入られた後は(日本にとって)ノーチャンスでした」と語っている。結果として、この個人技を前面に押し出したゴールが決勝点となり、日本は今回の欧州遠征を2戦2敗で終えることとなった。

来年3月の「変化」に期待

試合後、守備に関して大きな手応えを得た様子のハリルホジッチ監督。本大会までの準備でも手腕が問われる 【Getty Images】

 さて、この日のヤン・ブレイデルスタディオンには、スタンドを埋め尽くすほどの観客が詰めかけ、対戦相手の日本に対して盛んに「スシ! スシ!」と野次っていた。ランキングでは格上のベルギーだが、対日本戦では未勝利だったこともあり、サポーターもそれなりの敵対心をもって臨んでくれた。また森岡や久保といった、ベルギーでプレーする選手がピッチに送り込まれると、意外と激しいブーイングが発せられる。結果としてベルギーは勝利したが、1−0というスコアにファンは不満だったようで、試合後はスタンドからささやかな不満の吐息が漏れていた。われわれが考えていた以上に、彼らは日本を認めてくれていたのである。

 試合後の会見でのハリルホジッチ監督も、ブラジル戦とは打って変わって、この日は柔和な表情を見せている。発言の内容も「もったいない失点をしたが、ブラジル戦よりもいいゲームコントロールができた」とか、「このような結果ではあったが、選手たちには祝福の言葉を贈った」などとポジティブな内容のものが多かった。指揮官の表情を明るくさせた大きな要因は、守備に関して大きな手応えを感じたからだろう。「ブロックを作れば、どんなチームにでもボール奪えることを証明した」という発言は、3割くらい差し引いて受け止める必要があるが、それでもこの日の日本の守備意識の高さについては、十分に評価されてしかるべきであろう。

 それでは、今回の欧州遠征の2試合をどう評価すべきか? ブラジルに1−3、ベルギーに0−1、2戦2敗である。「相手が強すぎた」のは事実だが、ある程度の世論の反発は免れないだろう。一方で今回の遠征に、香川真司、本田圭佑、岡崎慎司の「ビッグ3」が招集されなかった明確な意図を、この2試合から見いだすことはできなかった。「興梠(慎三)を使わないのなら、岡崎を呼んでおいてもよかったのでは?」という意見もあるだろうが、それは結果論である。むしろ、来年3月の代表招集時での彼らの「変化」に、その解を見いだすべきなのかもしれない(逆にその時にも招集されなかったら「はい、それまで」という話である)。

 来月には東アジアカップ(EAFF E-1サッカー選手権)が開催され、そこで国内組の最後のサバイバルレースが行われる。だが現状を考えると、そこから新たにはい上がってくる戦力は、多くても2〜3人くらいだろう。よって今回の欧州遠征は、実質的に17年最後の代表の活動となる。W杯の本大会まで、あと7カ月。3月の親善試合2試合を終えれば、そこからは怒とうのように本大会モードになだれ込むこととなる。今後4カ月、代表候補の選手たちは所属クラブでの向上を目指すことになるが、その間により成果が問われるのがハリルホジッチ監督とスタッフである。今回の欧州遠征を受けて、来年3月にどんな日本代表をわれわれは目にすることができるのか。その完成形をあれこれ夢想しながら、これから帰国の途につくことにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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