あっさりと敗れた前回のファイナリスト 天皇杯漫遊記2017 川崎対柏

宇都宮徹壱

川崎の粘り強さはどこへ行ってしまったのか?

試合後の等々力競技場。シーズンが終わる12月2日、川崎は初タイトル獲得の余韻に浸れるだろうか 【宇都宮徹壱】

「今日はまず、守備に追われてしまいました。攻撃に入ったときも、判断がひとつ遅れて相手にブロックされてしまう。その繰り返しで悪循環に陥ってしまいました。ひとりひとりは『やってやろう』という思いはあったけれど、それがプラスアルファの力にはならなかった。それがすごく残念。何が何でも『(天皇杯を)獲ってやろう』という気持ちが、今日は足りなかったかもしれないです」(川崎・鬼木監督)

「川崎と対戦するときは、向こうは得点力もあるし、ボールを持たれると苦しくなる。相手にボールを渡してしまうと、なかなか返ってこないので、自分たちでボールを保持することを心掛けました。リスクがあるやり方ですが、選手たちは勇気をもってやってくれました。(後半、川崎が主導権を握る時間帯もあったが)そこは中央でシュートをブロックしたり体を寄せたりしながら、泥臭い守備で対応しました」(柏・下平隆宏監督)

 試合後の両監督の会見を聞き比べると、この試合に向けた対策という点で、柏が川崎を上回っていたことが分かる。といっても、彼らは特別なことをしていたわけではない。いつものメンバーで試合に臨み、相手の特長を消しながら勝利を引き出す戦いを愚直に遂行しただけの話だ。対する川崎は、相手を凌駕(りょうが)するだけの戦力を擁しながら、その能力を発揮できないまま敗れてしまった。ファーストレグを2−3で落としながらセカンドレグで3−1と逆転した(しかも退場者を出し1人少ない状況で)、ルヴァンカップ準決勝(ベガルタ仙台戦)で見せた粘り強さはどこへ行ってしまったのだろうか?

 この日の試合をどう位置付けるべきか、もしかしたら川崎は、最後まで意思統一できていなかったのではないか。ルヴァンカップでは決勝進出、リーグ戦も首位とは2ポイント差。いずれも初タイトルまで、あと一歩である。そうした中で行われた天皇杯のクォーターファイナルが、無意識のうちにプライオリティーが下がってしまった可能性は否めない。いくら今年の元日に悔しい思いをしたといっても、手を伸ばせば届きそうな距離にタイトルがあれば、そちらに目を奪われるのも詮無きことではある。とはいえ──。

 この日、ヴィッセル神戸と対戦した鹿島は、PK戦の末に敗れたため、リーグ優勝を争っている前回大会のファイナリストは天皇杯から脱落した。よって川崎も鹿島も、レギュラーシーズンが終わる12月2日で、今季の全日程を終えることになる。果たしてその時、川崎は初タイトル獲得の余韻に浸りながら、シーズンを終えることができるのだろうか。それとも、天皇杯での敗戦を悔やむことになるのだろうか。個人的には、今季こそは川崎に初タイトルを獲ってほしいと願っている。それだけに、柏との準々決勝がもったいない敗戦に終わったことが、ただただ残念に思えてならない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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