U-17日本、最高の相手に最高のプレーを! イングランド攻略の鍵は速攻と心理面

川端暁彦

選手が受ける大観衆からのプレッシャー

選手達は、大観衆の中でプレーするプレッシャーをどのようにはねのけていくのか 【佐藤博之】

 戦術的なポイントは明確な一方で、グループステージで出た課題も明確だ。つまり、心理面である。異国の大観衆が詰め掛け、選手たちの一挙手一投足に反応して大きな声が上がる。なかなか異次元の経験だ。普段は数十から数百人の観衆で試合をしてきた選手が多数派の中で、4〜5万人の観衆の中でプレーするプレッシャーをどうはねのけていくか。究極を言えば、経験したことのない注目度と雰囲気を楽しんでしまえればベストだ。

「スタジアムの雰囲気、5万人の観客が集まっていただけるという注目度の高さと関心、素晴らしい環境がある。その中で緊張する選手もいるだろうけれど、それは選手にとってかけがえのない経験になる。こういう舞台、対戦相手、ピッチ、観衆だからこそさらに燃えるというように、ワクワクしながらピッチに立ってほしい」(森山監督)

 絶対に負けられないという意識が先行していたグループステージでは後ろ向きなプレー選択も目立ってしまっていたが、指揮官はその点について率直に選手たちへ謝罪したことを明かした。

「僕自身が選手に『チャレンジしろ』と言いながら、実際はミスを許していなかったから選手が小さくなってしまったんだなと思い、選手たちに謝りました。ここまできたらやるしかない。ミスをしても全員でカバーし合ったり、ミスした選手が自分のミスを取り返せばいいという気持ちで向かっていきたい」(森山監督)

 グループステージ第3戦翌日、ラウンド16の前々日はあえて完全オフにした。中2日しかない状況で少しでも練習しておきたいところだったに違いないが、あえての我慢である。体力的な回復を図ることはもちろん、いったんノックアウトステージを前に心理面をリフレッシュする狙いがあったことも想像に難くない。仕切り直して、別の戦いを始めるんだというメッセージを選手たちへ送ったわけだ。

久保「こういう相手とやるために今までやってきた」

 逆に選手側は、自分たちのグループステージにおける不完全燃焼感を指揮官のせいにする気は毛頭ない。平川は「ここにきて弱気なプレーが周りから見て目立ってしまうことはあると思うのですが、それでは意味がない。明日は強豪国が相手で自分たちに失う物はないので、気持ちだけは強気でやりたい」と語り、谷も「ビビって引いてしまったらその時点で負けだと思う。こういう相手と1回戦から当たれるのはすごくうれしい」と闘志を前面に出した。福岡慎平主将(京都U−18)も、「物おじすることなく、チャレンジャー精神を持って、自信をもって戦いたい」と力強く言い切った。

 2年半の集大成として臨んだ大会で、チームはまだまだ“らしさ”を出せていない。それはこのチームの限界を示すものではなく、ここから始まるノックアウトステージでの伸びしろを示すものである。そう思わせるプレーを見せてほしいし、見せられるだけのタレントがいて、チームワークがある集団だ。

「今日(試合前日)も練習でいろいろなことを試している。自分たちはこういう相手とやるために今までやってきたつもりなので、今日まで試してきたことを、自分たちの集大成ではないですけれど出せるようにしたい」(久保)

 負ければ終わりのノックアウトステージ。森山監督が「2年半やってきたことを表現する発表会」と言っていたのがU−17W杯である。何ひとつ、試合に向けてネガティブになる要素はない。試合終了の笛まで「全身全霊全力で」(森山監督)走り切って、戦い抜くのみ。緊張感はこれまでの比ではないだろうが、最高の相手と最高の舞台でやれる絶好機。あとは自分たちの最高のパフォーマンスを出し切るだけでいい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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